パワハラ裁判から見るパワハラ暴言集

パワハラ
パワハラ

パワハラについて、厚生労働省では「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適性な範囲を超えて、精神的・身体的な苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為をいう。」と定義しています。

 

このパワハラは暴行などの行為はもちろん、脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言なども含みます。

 

ここでは、過去にパワハラと認定された暴言の事例についてご紹介します。

1.パワハラとは

パワハラとは、業務の適正な範囲を超えて苦痛を与える行為のことをいい、厚生労働省ではパワハラを以下の6つの類型に区別しています。

※但し以下の類型に当てはまらないパワハラ行為も、もちろんあります。

 

  1. 身体的な攻撃(暴行・傷害をふるう)
  2. 精神的な攻撃(脅迫・暴言等などを行う)
  3. 人間関係からの切り離し(隔離したり、仲間はずれをしたり無視すること)
  4. 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制したり仕事の妨害をする行為)
  5. 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じるたり、仕事を与えなかったりする行為)
  6. 個の侵害(私的なことに過度に立ち入った質問などをする)

 

上記のようなパワハラ行為は、法的には不法行為に当たり、加害者は不法行為責任に基づく損害賠償責任を負います。また、会社には使用者責任があり、従業員が業務のなかで第三者に損害を与えた場合には、その従業員(加害者)とともに損害賠償責任を負います。

2.暴言もパワハラ

前述したとおり、パワハラはさまざまな類型がありますが、脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言などももちろんパワハラに該当します。

 

ここでは、過去ひどい暴言がパワハラと認定された事例についてご紹介します。

(1)暴言により自殺(平成19.10.15)

国・静岡労基署長(日研化学)事件は、医療情報担当者(MR)のAが、上司からひどい暴言を受けて自殺した事例です。

この事件はAの妻が労働基準監督署長に対して労働者災害補償保険法に基づき遺族補償給付の不支給決定の取り消しを求めた事案ですが、上司がAに対する厳しい言葉による指導を行って精神障害を発症したAが自殺しており、この上司からの暴言をどう評価するかが、争点の一つになりました。

 

~ひどい暴言例~

 

・「存在が目障りだ、いるだけでみんなが迷惑している」

・「おまえのカミさんの気が知れん。お願いだから消えてくれ」

・「車のガソリン代がもったいない」

・「どこへ飛ばされようが、俺は『Aは仕事をしない奴だ』と言い触らしたる」

・「お前は会社を食い物にしている、給料泥棒」

・「お前は対人恐怖症やろ」

 

裁判所では、これらの言動について、上司が「部下として指導しなければならないという任務を自覚していた」と同時に、自殺したAに対して「強い不信感と嫌悪感の感情を有していたものと認められる」と指摘し、Aが過重な心理的負荷を受けており、Aの自殺は業務起因性を認めるのが相当であると判断しました(東京地裁 平成19.10.15)。

(2)暴言により自殺(平成19.10.31)

名古屋南労基署長(中部電力)事件は、電力会社の主任であったAが、うつ病を発症し自殺した事例です。

自殺したAの妻が、Aが自殺したのは業務そのものの過重性および上司Bのパワハラによる業務の過重性により生じたものとして、業務外と判断して遺族補償年金および葬祭料について不支給決定した労働基準監督署に対してその処分の取消を求めた事案ですが、裁判所が判断する際に上司の指導について言及しています。

 

~ひどい暴言例~

 

・「主任失格」

・「おまえなんか、いてもいなくても同じだ」

・「車のガソリン代がもったいない」

・「目障りだから、そんなちゃらちゃらした物は着けるな、指環は外せ」

 

裁判所では、上司の指導が日ごろから大声できつい口調であり、他の職員に聞こえる状況で指導することがあったことを指摘し、指導の範疇を超えた感情的な叱責であって、その指導は人格の否定とも見るべきであると判断されています。とくに「指輪を外せ」という言動については、Aがその直後に焼身自殺を図ったという経緯があるため、詳細に認定しています(名古屋地裁 平成19.10.31)。

(3)暴言により退職(平成25.10.9)

アークレイファクトリー事件は、派遣労働者であったAが、派遣先の会社であるB社の社員から暴言を受けて、就労を辞めざるを得なかったとして、損害賠償を請求した事案です。

 

~ひどい暴言例~

 

・「殺すぞ」「あほ」

・「コペン(車両)、かち割ったろか」

・「何しとんねん、お前。コペン帰りしな覚えておけよ。あれぐにゃーなっとるぞ」

 

裁判所では、上記のような軽口が1度だけであれば、違法とならないこともあり得るとしても、これを繰り返し行う場合には、嫌がらせに該当し時には侮辱といった意味を輸するに至り、違法性を帯びるに至るというべき」と判断しました(大阪高裁 平成25.10.9)。

(4)暴言と退職強要(平成26.1.15)

メイコウアドヴァンス事件は、代表取締役・監査役による暴言や暴行、退職強要といった日常的なパワハラを受けたことを原因として、従業員Aが自殺した件について損害賠償を求めた事案です。

 

~ひどい暴言例~

 

・「てめえ、何やってんだ」

・「どうしてくれるんだ」「ばかやろう」

・従業員Aがミスした際には、従業員Aに対して損害賠償を請求し、支払えなければ家族に請求するという趣旨のことを述べた。

・退職届に損害として従業員Aが一族で1000万円から1億円を返済する旨、記載させた。

 

裁判所では、自殺する3日前に受けた退職強要もあるところ、短期間のうちに行われた暴行や退職強要により急性ストレス反応を発症したと判断し、自殺との因果関係を認定しました(名古屋地裁 平成26.1.15)。

3.パワハラ被害に遭ったら

パワハラ被害に遭ったら、1人でその悩みを抱え込んではいけません。

ご家族、友人などに悩みを打ち明けたり、弁護士に相談して必要となる証拠を集め、労働基準監督署に相談したり、裁判などの法的手続きをとるなど、解決方法はいくつもあります。

ひどいパワハラ被害に我慢し続けていては、心身の調子を崩し、鬱状態になってしまうこともあるかもしれません。

絶対に1人で悩みを抱え込まないようにして下さい。

(1)労災申請出来る

ひどい暴言を受け、うつ病などの精神障害を発症した場合には、労災申請を行い、生活費や医療費などを労災に負担してもらうことも出来ます。

(2)慰謝料を請求出来る

パワハラ被害に遭った場合には、パワハラが起こらないよう会社に求めることも出来ますし、加害者だけでなく会社に対して損害賠償を請求することも出来ます。

 

繰り返しますが、パワハラの悩みは絶対に一人で抱え込まないでください。解決方法も一つではありません。

朝起きるのが辛い、会社に行きたくないと感じたら、我慢しないで休みを取ること。そして少し元気が出たら、ご家族、友人などに悩みを打ち明け、労働問題に詳しい弁護士に相談して下さい。

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