2018年11月、日本を代表する自動車メーカーの会長が金融商品取引法違反の疑いで逮捕されました。
誰もが名前を知っている大企業の会長による不正であるだけに、ニュースでも大きな話題となりました。今回は、この不正事件についてその概要や原因について説明していこうと思います。
1.事件の概要
容疑者は他の自動車メーカーの会長なども兼任しており、会社の有価証券報告書に実際の報酬よりも過少に記載したり、資産を不正に使用したりした罪に問われています。
容疑者は自身の報酬を2011年から5年にわたって合計50億円の過少報告をしていたそうです。容疑者の2017年度の報酬は会長を務めている3社を合計して約19億1200万円でした。
この事件を受け、会社は容疑者の会長職からの解任を決定しました。
2.原因
なぜ、容疑者は自らの報酬を過少報告していたのでしょうか。そしてなぜ、容疑者による不正が5年間も行われていたのにも関わらず、不正を是正することができなかったのでしょうか。
(1)世間からの批判を抑制する為
容疑者が自分の報酬を低く報告していた目的として、世間からの目が考えられます。
始めは脱税目的かと考える方もいましたが、容疑者の税金は源泉徴収されていますので有価証券報告書の改ざんでは脱税できません。また、容疑者は主に海外で生活し、日本に住民票があるわけではありませんので、もともと日本には税金を払っていません。
そこで考えられる不正の目的は世間からの批判をかわすためです。つまり、容疑者は世間に自分の報酬を少なく見せたかったということです。
話しによれば、会社のある人物が容疑者に「日本では10億円以上の報酬をもらっていると批判されるので、10億円以下にした方がいい」とアドバイスをしたそうです。
(2)容疑者への権力の集中
容疑者は自分の側近の人物に報酬の過少報告を指示していたとされますが、なぜ5年間も不正を是正することが出来なかったのでしょうか。
その原因としては、容疑者に権力が集中しすぎてしまい、周りの人間が指示に従ってしまったことが考えられます。そこで、容疑者に社内の権力が集中した経緯について説明します。
容疑者が会長を務めていた日本の自動車メーカーは当時深刻な経営不振に陥っており、事業の早急な立て直しの必要に迫られている状況でした。そこで、日本の自動車メーカーは容疑者を海外からCEOとして迎えました。
容疑者はその自動車メーカーの経営を立て直すために、費用を徹底的に削り、優れた経営手法によって見事に経営を回復させることに成功し、以降20年にわたって経営を引っ張ってきました。そういった過程を通して、容疑者が社内で英雄視されるようになり、容疑者の元に権力が集中するようになったことで、権力の一極集中が形成されました。
もちろん、権力が集中したからといって、不正が発生するわけではありませんが、容疑者は日頃からお金に執着する面が強く、そういった面で不正に至ったと考えられます。
つまり、何よりもお金を得ることに関心のある容疑者に権力が集中したことで今回の不正が発生し、権力の強さから周囲の人間が指示に従い続けてしまったために5年間不正が是正されることがなかったと考えられます。
3.不正の発覚
今回の容疑者の不正が発覚したきっかけとして、社内の人間による内部告発だと考えられています。
容疑者への高額の報酬が会社にとって負担になっていただけでなく、会社の社長をはじめ容疑者への権力の集中に良く思っていない人もいました。そこで、そのような人たちが容疑者の不正を検察に報告し、秘密裏に調査を続けていたそうです。
そして、容疑者の不正の証拠が明確になり、今回の逮捕に至ったということです。
4.まとめ
今回の大手自動車メーカー会長による不正事件は、一人の人間に権力が集中し、容疑者が私利私欲に走ってしまったために起きました。今回のような国を代表する企業のトップによる不正はその国の産業の信用にも大きく関わります。
今回のような事件が再び起こらないように、企業のガバナンス構造についても見直す必要があります。