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残業をすれば、法律上、労働者に残業代の請求権が発生します(労働基準法37条1項)。そして会社は、実残業時間帯に応じた割増率に基づいて割増賃金を支払う必要があります。
では具体的に、割増賃金を支払う必要がある残業とは、どのような場合なのでしょうか。
1.残業とは
労働時間は、原則として1日8時間、1週40時間までと定められています。
やむを得ない事情で、上記法定労働時間を超えて時間外労働(残業)や法定休日に労働させる場合は、労使協定(三六(さぶろく)協定)が必要です。
(1) 残業させるために必要な労使協定(三六協定)とは
会社が、法定労働時間を超えて労働者に働いてもらうためには、労使協定(三六(さぶろく)協定)を締結して、労働基準監督署に届け出ておく必要があります。
労働基準法の36条に定められていることから、三六協定と呼ばれています。
(2) 残業には2種類ある
残業した場合に支払われるべき賃金ですが、実は残業といっても2種類あり、割増賃金の対象となる残業代(法定外残業)と割増賃金の対象とはならない残業代(法内残業)とがあります。
「法定外残業」とは、前記の労働基準法所定の1日8時間・1週40時間を超える残業のことで、所定賃金に1.25倍以上を上乗せした割増賃金を支払う必要があります。
「法内残業」とは、就業規則や契約書で定められた労働時間は超えてはいますが、労働基準法所定の労働時間(1日8時間、1週40時間)は超えていない残業のことです。
法内残業の場合には、法律上は割増した賃金を支払う必要はなく、通常の賃金が支払われればいいことになります。
(3) 法定外残業の割増賃金
割増賃金とは、使用者が労働者に時間外労働(残業)・休日労働・深夜業を行わせた場合に支払わなければならない賃金のことで、下記のとおり時間帯に応じた割増率に従って、計算する必要があります。
* 時間外労働・深夜業1日8時間・1週40時間を超えた時間外労働および深夜(原則として22時~5時)に労働させた場合には、1時間当たりの賃金の1.25倍以上の割増賃金を支払わなければなりません。 * 休日労働法定休日に労働させた場合には、1時間当たりの賃金の1.35倍以上の割増賃金を支払わなければなりません。 |
(4)法内残業は「割増なし」の賃金でもOK
1日8時間、1週40時間を超えない法内残業(所定労働時間)に対しては、法律上は割増した賃金を支払う必要はなく、通常の賃金が支払われればいいことになります。
もちろん使用者が就業規則等で、「法定労働時間(1日8時間・1週40時間以内)の残業であっても1.25倍以上の割増賃金(残業代)を支払う」など定めている場合であれば、残業代を請求することができます。
(5) 時間帯ごとの割増率の事例
【例1】時間外労働の割増率
所定労働時間が9時から17時、休憩1時間の場合
* 17時~18時→1時間あたりの賃金×1.00×1時間(法定時間内残業) * 18時~22時→1時間あたりの賃金×1.25×4時間(法定時間内残業) * 22時~05時→1時間あたりの賃金×1.50(1.25+0.25)×7時間(法定時間内残業+深夜労働) |
【例2】法定休日労働の割増率
9時から24時まで労働させた場合で休憩1時間の場合
* 09時~22時→1時間あたりの賃金×1.30×12時間(休日労働) * 22時~24時→⇒1時間あたりの賃金×1.60(1.35+0.25)×2時間(休日労働+深夜労働) |
2. 割増賃金の不払いが問題となるケース
割増賃金の不払いについて、よく問題となるのが「名ばかり管理職」や「みなし労働制」などのケースです。
(1) みなし労働制
みなし労働制とは、営業職など労働時間を管理するのが合理的ではない場合、労働時間を一定時間労働したものとみなす制度です。
みなし労働制を採用している場合には、実際の労働時間に対応した残業代は支払われなくてもよいことになっています。
ただしこのみなし労働制と認められるためには、「労働組合もしくは従業員の過半数を代表する社員と交わした協定書などを、あらかじめ労働基準監督署に届ける必要があります。
そのほか、出勤時間や退社時間などを労働者が自分の裁量で決めている実態が必要になるなど、厳しい条件をクリアしなげればなりません。
実際には、会社がみなし労働制という仕組みを採用していても、法律上のみなし労働制の条件をクリアしていないケースは多々ありますので「みなし労働制だから、残業代は出なくても仕方ない」とすぐに諦めることはありません。
(2) 名ばかり管理職
法律上、「管理監督者」や「機密事務取扱者」には、残業代を支払わなくても良いことになっています(労働基準法41条2号)。
ここで問題となるのが、課長や部長といった役職者が、「管理監督者だから」という理由で残業代が支払われないケースです。
「管理監督者」とは「実体から見て、労働管理について、経営者と一体的な立場にある者」なので、そのように判断されなければ、実は多くのケースで残業代を請求できる立場にある可能性があります。
(3) 役職手当や営業手当
「役職手当や営業手当のなかに、残業代が含まれている」として、残業代が支払われないケースがありますが、役職手当や営業手当は残業に対する手当ではなく、職務や職責に対する手当です。
ですから役職手当や営業手当が支給されていることを理由に、当然残業代が支払われないとされることはありませんし、その手当の額が労働時間に基づく残業代を下回る場合には、会社に対してその不足分を請求することができます。
(4) 割増賃金の支払いに代えた有給休暇
前述したとおり、労働基準法所定の1日8時間・1週40時間を超える残業については1.25倍以上を上乗せした割増賃金を支払う必要がありますが、1か月に60時間を超える時間外労働の割増率については、5割以上となります。
(※ただし当分の間、中小企業はこの適用が猶予されています。)
そして1か月に60時間を超える時間外労働を行った場合でも、事業場で労使協定を締結すれば割増賃金の支払に代えて、有給の休暇を付与することができます。
ただし、労働者がこの有給の休暇を取得した場合でも25%分の割増賃金の支払は必要です。
(5) 割増賃金の不払いは罰則を課せられることも
残業代が発生しているにも関わらず、残業代を支払わないなどの労働基準法違反については、労基法119条で6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が定められています
なお「三六協定」で定められている残業の上限時間を超えて働かせた場合についても、会社代表者には「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課される可能性があります。
また、労働基準監督官は警察官と似たような権限を認められておりますので、捜査・送検も行えますし、場合によっては逮捕されることもあり得ます(労基法101条、102条)。