月60時間を超える時間外労働の残業代

残業代
残業代

会社は、無条件に労働者に残業を命じることはできません。

労働基準法32条では「週40時間、1日8時間」を法定労働時間としていて、この労働時間を超えて労働をさせた場合には、労働者に対して割増賃金を支払う必要があります。

また2008年には残業時間を抑制しようとする目的で労働基準法が改正され、「月60時間を超える残業については、より多額の割増賃金を支払わなければならない」こととなりました(※ただし中小企業については、当分の間、割増賃金率の引上げをしなくてもよくなっています)。

さらに昨今は、労働時間の増加が生活面に大きなしわ寄せを生じていることから、仕事と生活との調和、いわゆるワーク・ライフ・バランスが強く意識されるようになり、働き方を見直し、残業を削減しようという施策も増えてきています。

ここでは残業の在り方や、月60時間を超える時間外労働の割増賃金の計算方法などについて、ご紹介します。

1.割増賃金とは

会社が労働者に、時間外・休日・深夜労働をさせた場合には、それぞれの時間帯に応じて決められている割増率以上の賃金を支払わなければならないとされています。

割増賃金制度は、割増賃金の支払いという経済的負担を会社に強いて、過度な労働を防ぐブレーキの役割と果たすと共に、労働者への補償という意味があります。

(1) 時間外勤務

労働基準法37条では、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働者を働かせた場合には、25%以上の割増率分を上乗せした割増賃金を支払う必要があります。

したがって会社の就業規則等で、所定労働時間が7時間と定められている場合に、8時間労働した場合、延長した1時間については、賃金規定などで別段の定めがない限り法律上は割増賃金を支払う必要はないことになります。

ただし、この残業した1時間について、会社が就業規則等で「割増率分を上乗せした賃金を支払う」と規定することは、労働者に有利な結果になるとして、会社が独自に決めることができることになっています。

(2) 休日勤務

会社の就業規則などで別段の定めがある場合を除き、法定休日に労働をさせた場合には、会社は35%以上の割増率分を上乗せした割増賃金を支払う必要があります。

したがって、就業規則などで法定休日以外の土曜日や祝祭日などを定めていたのに、会社の業務状況(繁忙期など)により、その日に労働をさせたとしても、法律上は割増賃金を支払う必要はありません。

つまり法定休日なのか法定外休日なのかで、休日割増賃金を支払う必要があるか否かが判断されることになります。

(3) 深夜勤務

原則として、午後10時から午前5時までの間に労働させた場合は、通常の労働時間の賃金の計算額の25%以上の割増率分で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

労働基準法における労働時間、休日、休憩時間の規定が適用除外となる者(鉄道の踏切番や役員専用自動車運転手や管理監督者など)についても、深夜勤務した場合には割増賃金を支払う必要があります。

2. 60時間を超えた時の割増率

前述したとおり、会社が労働者に残業をさせた場合には、25%~50%の割増率に基づいた割増賃金を支払うことが決められています。

しかし、過剰な残業が生活や健康に大きな影響を与えていることに考慮し、ワーク・ライフ・バランスを重視する目的から、「月60時間を超える残業については、50%以上の割増率分を上乗せした割増賃金を支払わなければならない」と規定されています(労働基準法27条1項 但書)。

※この規定は、現在のところ中小企業については適用が猶予され、当分の間、割増賃金率の引上げをしなくてもよくなっています。

(1) 60時間を超えた際の賃金の算出方法

では60時間を超えた際の賃金は、どのように算出すればよいのでしょうか。

まず割増賃金を計算する際には、まず「1時間あたりの賃金単価」を算出しておく必要があります。

※1時間あたりの賃金単価は、(基本給-諸手当)÷1か月の平均所定労働時間で算出します。

そして60時間までの残業時間、60時間を超えた残業、深夜労働時間、法定休日の労働時間ごとに計算することになります。

* 60時間までの残業の割増賃金……A

60時間までの残業時間×1時間あたりの賃金単価×1.25

* 60時間を超えた残業の割増賃金……B

60時間を超える残業時間×1時間あたりの賃金単価×1.5

* 法定休日労働の割増賃金……C

法定休日労働時間×1時間あたりの賃金単価×1.35

* 深夜労働の割増賃金……D

深夜労働時間×1時間あたりの賃金単価×1.5

A+B+C+D=月60時間を超えて労働した時に受け取る賃金

3.残業代請求の方法

月60時間を超えた場合に限らず、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて労働したのに残業代が支払われていない場合には、残業代を請求することができます。

未払いの残業代を請求するためには、以下の方法があります。

(1) 内容証明郵便

内容証明郵便とは、「誰が、誰に、どんな内容の手紙を出したのか」ということを郵便局(郵便事業株式会社)が公的に証明してくれる文書のことをいいます。

内容証明郵便には、法律上「催告(支払いしてくださいという意思表示)」(民法153条)の意味があり、時効による消滅を一時的に免れる効果があります。

(2) 支払い督促・交渉

タイムカードや入退館記録など、残業代の未払いの事実が明白である場合には、支払い督促を行い、直接交渉するという方法もあります。

しかし個人が会社と直接交渉したところで、すんなり支払いに応じてもらえるケースはほとんどないと言ってよいでしょう。

残業代を支払わない企業はブラック企業であることも多く、話し合いにすら応じない会社も多々あるので、早めに弁護士に相談して交渉窓口になってもらうことをおすすめします。

(3) 民事調停・審判・訴訟

話し合いによる解決が困難である場合には、民事調停・審判・訴訟などの法的措置を検討することになります。

民事調停・審判・訴訟などでは、残業代を請求する側が「未払いの残業代があること」を立証する必要があるため、証拠資料が大変重要となります。

未払いの残業代を請求しようと考えている人は、早めに弁護士などの専門家に相談して、必要となる証拠や資料についてアドバイスを受けておくことが大切です。

弁護士であれば、必要な証拠や資料はもちろん、手続きなども迅速に行なうことができます。

また個人では困難だった話し合いについても、弁護士が介入することで結果的にスムーズに解決することが多いようです。

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