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「過労死」という言葉は、英語でも「karoshi」として辞書に掲載されるほど有名になり、一つの死因として認められるようになってきました。しかし、死亡した人の死因が業務上のものによるものなのかどうか、つまり過労死かどうかを判断するのは、非常に難しい問題でもあります。
そこでこのような問題に対処するため、通常過労死かどうかを判断するには、厚生労働省により定められたガイドラインが使用されるのが通常です。
専門用語や難しい言い回しが多く、読むのが非常に大変なこの認定基準ですが、今回はそんな認定基準を5分でわかるようにまとめたので、ぜひご覧ください。
1.そもそも過労死とは
「過労死」に法律的・医学的な厳密な定義はありません。何らかの原因で従業員が死亡し、その死亡の原因が業務上の問題点にあると裁判所が認めた場合、そのケースが「労災」と認定され、労災保険の給付や企業への損害賠償などにつながります。
では、どんな死因が過労死と認められるのか。厚生労働省の労働基準法施行規則には、以下のように記されています。
長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)若しくは解離性大動脈瘤又はこれらの疾病に付随する疾病
(厚生労働省「労働基準法施行規則」引用)
つまり、長時間の業務や精神的・肉体的にストレスを感じる業務により、心臓病や脳疾患を引き起こしてしまった場合に、過労死であると認められます。
2.脳・心臓疾患の労災認定のガイドライン
厚生労働省は、過労死認定のガイドラインとして、「脳・心臓疾患の労災認定」というものを発布しています。これによると、過労死の判断基準になりうるのは、「異常な出来事」「短時間の過重労働」「長時間の過重労働」の3つで、これらを総合的に判断して認定を行うとされています。
この3つの項目は、主に発症までの時間的スパンによって分類されています。
(1)異常な出来事
「異常な出来事」とは、精神的・身体的にストレスを受けたり、急激に作業環境が変わったり、ということがあげられます。例えば重大事故に居合わせて大きなショックを受けた、熱い屋外で水分補給をせずに長時間労働した、などです。
ただ注意が必要なのは、評価期間が発症前日から当日にかけてだということです。この判定基準は、通常の業務とは違う、特別な負荷やストレスがかかっていたかどうかを判断するものだということです。
(2)短時間の過重労働
この基準は、発症に近い時期に特に負担となる労働がなされていたかどうかを判断するものです。評価のポイントとなるのは長時間労働や残業だけでなく、深夜勤務・不規則な勤務・作業環境・精神的負荷なども考慮されます。
この基準の評価期間は、発症のおよそ1週間前までです。直前の1週間で労働者に過剰なストレスがかかっていないか、ということが判断されます。
(3)長時間の過重労働
この基準は前の項目に加えて、発症前の長期間にわたって特に負荷の高い労働がなされていたかどうかを判断するものです。
(2)の項目と同じく、長時間労働とその他の負荷などが総合的に考慮されますが、特に長時間時間については、いわゆる過労死ラインによって以下のようにあらわされています。
発症前1ヶ月間におおむね100時間又は発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が高いと判断される。
引用:過労死ライン
つまり、一か月100時間の時間外勤務(週63時間の労働)や、二か月以上にわたって月80時間の時間外勤務(週58時間の労働)があった場合に、過労死と判断される可能性が高まるということです。
ただ注意が必要なのは、この基準は絶対的なものではないということです。労働時間は過労死を判断する一つの指標にすぎません。単純にこの時間を超えて残業したから過労死、超えていなかったから過労死ではない、というわけではなく、労働時間と労働の状況を加味して総合的に判断されます。
3.脳・心臓疾患以外で労災認定がされる場合
厚生労働省のガイドラインは脳・心臓疾患を発症した場合について過労死か否かの判断基準を示していますが、それ以外の原因で死亡してしまった場合でも過労死が認定されることがあります。
過去の症例としては
等でも、過労死が認められたというケースもあります。詳しくは下の記事をご覧ください。
4.過労自殺に関するガイドライン
また厚生労働省では、肉体的要因からくる過労死だけでなく、精神的要因からくる過労自殺に関して、「心理的負荷による精神障害の認定基準」というガイドラインを定めています。
ここで書かれていることをざっくりとまとめると、
ということが書いてあります。
また、自殺した者が業務によって以下の精神疾患にかかったと判断された場合は、必ず業務起因性が認められます。
用語が難しいですが、基本的に「業務上の強いストレス」によって「精神疾患を発症」したときに過労自殺が認められると覚えておくとよいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
難しい言葉が多くて、判断基準が複雑でわかりにくい…と思ってしまったかもしれません。
意外かもしれませんが、「過労死」の具体的な認定基準が厚生労働省によって定められているわけではありません。「脳・心臓疾患」のガイドラインと、「精神疾患」のガイドラインというものが存在し、それぞれの要因によって死亡または自殺した時に、過労死だと認められます。
過労死の判断基準なんて…と思うかもしれませんが、この基準は過労死になった人でなくても、業務によって自分がどれほど負荷を感じているか考える客観的指標になります。自分の仕事がこの認定基準に該当していないか、一度照らし合わせてみてはいかがでしょうか。