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通勤途中のケガや病気が「仕事が原因で生じた」と認められる場合には、労災と認定され、被災した方やそのご遺族は労災保険による補償を受けることができます。
労災の対象には「うつ病」や「適応障害」などの精神障害も対象となります。
そして会社に落ち度があれば、会社に対して損害賠償請求できる可能性もあります。
ここでは、どのような法律を根拠にすれば、賠償請求が認められるのでしょうか。
1. 労働災害と民事責任
労災保険とは、労働者が仕事が原因で生じたケガや病気を補償する制度です。
労災が認められると、給付診察代や薬代、入院にかかった費用や、治療のために会社を休んだ場合で賃金の支払いがされていない場合には、その間の生活費も支給されます。
また被災した方が亡くなった場合には、そのご遺族に「遺族(補償)年金」や「遺族特別年金」、「遺族特別支給金」が支給される場合もあります。
最近は労災認定の基準が繰り返し引き下げられるなど、被災者が手厚く補償されるケースが増えています。また、業務上の心理的負荷に起因する過労死・過労自殺は近年ますます増加傾向になります。
このような労働災害について、会社に過失(落ち度)がある場合には、会社に対して損害賠償請求を行うことができる場合があります。
労災事故で損害賠償請求する際に、法的な根拠となるのは、大きく分けて安全配慮義務違反としての債務不履行責任(民法415条)と不法行為責任です。
(1) 債務不履行責任
安全配慮義務違反としての債務不履行責任(民法415条)は、基本的には労働契約関係があることを前提としていて、その労働契約に含まれている「安全配慮義務」を十分尽くしておらず、契約違反であることを根拠として損害賠償請求できるのです。
ただし判例では派遣や下請け業者など、労働者と会社の間に労働契約がない場合にも、労働者と会社が指揮監督関係にある場合には、安全配慮義務の類推解釈を認め、債務不履行責任を追及できるとしています。
(2) 不法行為責任
労災に関して会社に責任追及する際に、法的な根拠となる不法行為責任としては、次の5種類があります。
* 一般不法行為責任(民法709条)
* 使用者責任(民法715条1項)
* 土地の工作物責任(民法717条)
* 注文者の責任(民法716条但書)
* 運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)
もっとも、どのようなケースで、どんな条文を根拠に賠償責任をするべきか、労災請求との関係も見ながら、どのようなタイミングで請求を行うかについては、労災問題に詳しい弁護士の専門的な判断は不可欠といえます。
(3) 会社代表者への責任
賠償請求する会社が大企業であれば、その代表者個人に対して損害賠償請求することは困難ですが、中小企業などで代表者自らが現場を指揮監督しているような事例では、代表者個人の財産を標的に損害賠償請求せざるを得ないケースもあります。
その場合には、一般不法行為責任(民法709条)のほか、民法715条2項による代位監督者の責任を問うケースもあります。
2. 不法行為責任の種類
前述したとおり、労災の被災者が会社に対して損害賠償請求する法的根拠のうち、不法行為責任の種類としては、一般不法行為責任(民法709条)、使用者責任(民法715条1項)、土地の工作物責任(民法717条)、注文者の責任(民法716条但書)、運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)の5つがあります。
ここでは、それぞれの不法行為責任について解説します。
(1) 一般不法行為責任
一般不法行為責任(民法709条)で責任追及する場合には、直接に加害者当事者の責任を追及する場合に、使用者責任(民法715条1項)の前提とされます。
加害者に一般不法行為責任が成立するためには、【1】故意過失により、【2】他人の権利を侵害し、【3】相手方に損害を生じさせ、【4】侵害行為に違法性があり、【5】侵害行為と損害との間に因果関係があること の5つの要件が必要です。
(2) 使用者責任
直接の加害者だけではなく、その加害者が雇用されている会社に対しても併せて損害賠償請求する際には、使用者責任(民法715条1項)を根拠とします。
会社に使用者責任を追及するためには、【1】労働者が、その事業を遂行する際に第三者に不法行為を行い損害を与えたこと、【2】会社が労働者の選任および事業の監督について相当の注意をしなかったこと、の2つの要件が必要です。
(3) 土地の工作物責任
土地の工作物の設置または保存に瑕疵がある場合で、その瑕疵のために他人に損害を与えた時には、土地の工作物責任(民法717条)を追及できる場合があります。
(4)注文者の責任
請負契約の注文者は、請負人に対して仕事の完成を依頼して報酬を支払います。
ですから注文者に責任を追及できる場合があります(民法716条但書)。
過去には、広島市の新交通システムの落下事故の労災・講習災害事故において、注文者である広島市の責任が認められたケースがあります(広島地裁 平成10年3月24日)。
(5) 運行併用者責任
自動車を運転するうえで、自動車と言う危険な機械で人身事故が発生した場合には、原則として損害賠償責任を負います(自動車損害賠償保障法3条)。ただし例外的に次の3点について立証できる場合は免責することとしています。
* 自己または運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
* 被害者または運転手以外の第三者に故意または過失があったこと
* 自動車に構造上のけっっかんまたは機能の障害がなかったこと