横領罪と窃盗罪の違い あなたの会社で起こったら?もしもの時の対処法

横領罪と窃盗罪の違い あなたの会社で起こったら?もしもの時の対処法 不当解雇
不当解雇

ニュースなどを見ていると会社の金銭が不正に持ち出された「横領」が起こったという話を耳にすることがあります。

経営者の方は自分の会社で万が一にも起こってしまったらどのように対処したらいいのか分からず、戸惑ってしまうこともあるでしょう。

もし、自分の会社で横領や窃盗があった場合、どの様に対処するべきでしょうか。

それを探るにはまず横領罪と窃盗罪が具体的にどういう罪なのかを理解しなければなりません。

1.横領罪と窃盗罪の特徴と違い

(1)横領罪

横領罪は刑法38章によって規定されている罪であり、「自己の占有する他者からの委託物などを自分のものにしてしまうこと」です。

横領罪には主に「単純横領罪」「業務上横領罪」「遺失物横領罪」の3つがあります。

①単純横領罪

単純横領罪は他者から委託されて、自己が占有する物品を自分のものにしてしまった場合に成立します。刑法第252条により5年以下の懲役に処されます。

例)友人から借りていた本を勝手に売却し、金銭を自分のものとする。

②業務上横領罪

業務上横領罪は仕事上の業務などで金品の管理を任されている人物が、その金品を自分のものにしてしまった場合に成立します。刑法253条により10年以下の懲役に処されます。

例)会社から集金を命じられた社員が、集金を個人的な私用で使用し、会社には集金できなかったと報告する。

③遺失物横領罪

遺失物横領罪は遺失物や漂流物など、他者の占有を離れた他者のものを自分のものとした場合に成立します。これは1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処されます。

会社などの業務上で起こる横領の場合、②の業務上横領罪に該当します。

例)落とし物などを届け出ず、自分のものにしてしまう。

(2)窃盗罪

窃盗罪は刑法36章第236条にあるように、他人の「財物」を窃取した場合に成立します。

「財物」とは物質的な実態のあるものだけでなく、電力などといったエネルギーなど、無形のものも含まれます。これは10年以下の懲役又は50万円以下の罰金を科せられます。

窃盗罪が成立するためには以下の3つの要素を満たさなければなりません。

①窃取行為の有無

断りなく、他人の財物を自分のものとし占有する行為があったかどうか。

②窃取の事実の有無

窃取行為の結果、実際に財物を窃取されたかどうか。

③不法領得の意思の有無

他人の財物を故意的に窃取し、窃取したものを自分のものとしようとする意思があるかどうか。

また、窃盗罪は未遂でも罪に問うことが出来ます。たとえ未遂であっても、量刑は窃盗を行った場合と同じです。

たとえ小さな窃取行為であっても窃盗罪として扱うことができます。

例えば、会社が所有している備品のペンなどを家に持ち帰るということも、他者の所有物を無断で持ち帰るわけですから、窃盗罪として扱われるケースがあります。

(3)横領罪と窃盗罪の違い

横領罪と窃盗罪の違いは以下です。

横領罪・・・「自己の占有する他者のもの」を自分のものとするもの

窃盗罪・・・「他者が所有する財物」を自分のものとするもの

会社の例で考えると、

会社のお金を管理(占有)している経理の人物が勝手にお金を持ち出し、自分のものとした場合は「横領」になります。

ですが、お金の管理(占有)をしていない経理以外の人物が、勝手に会社のお金を持ち出した場合は「窃盗」になります。

2.業務上横領の事例

よくある業務上横領の事例としては以下のようなものがあります。

  • 会社から集金を命じられた社員が、集金を個人的な私用で使用し、会社には集金できなかったと報告する。
  • 経理を担当する社員が、会社の預金口座にある現金を私用の口座に振り込む。
  • 会社の備品としてある郵便切手を無断で持ち出し、現金に換金する。

会社の預金口座から現金を自分のものにする以外にも、会社の財産である切手や印紙、備品などを換金する行為も業務上横領にあたります。

3.業務上横領罪と窃盗罪、会社が罪に問うには?

(1)業務上横領罪を罪に問うには申告が必要

業務上横領罪は非親告罪なので、本来なら告訴しなくとも起訴される罪ですが、大抵が社内で起こる問題であるため、被害者である会社が被害申告をしなければ事件として発覚せず、捜査機関は気が付くことが出来ません。そのため、被害届などが出ていない場合、犯人を逮捕し、起訴することは難しいです。

周囲の目もあり、あまり大事にしたくないと考えている場合、内々に処理をしてしまう場合もあるかもしれませんが、その場合当然犯人に前科は付きませんし、罰則等も科せられません。

もしあなたが横領した人物にきちんとした罰を望むのであれば被害申告、あるいは告訴状を届け出るようにしましょう。被害申告は実際に犯罪が「発生」したことを捜査機関に申告し、捜査が開始されるかどうかの判断を待つものです。

一方で告訴状は実際に犯罪に「遭った」ことを捜査機関に申告するものです。そのため告訴状を提出する場合には犯罪の被害に遭った証拠や適切な書類を用意しておかなければ、告訴状を提出しても簡単には受理されませんので注意しましょう。

(2)窃盗罪には現行犯逮捕と通常逮捕がある

窃盗を行った者を罪に問う場合、まさに今、窃盗行為を行っている場面を目撃者によって取り押さえられ、警察などに引き渡されるか、駆けつけた警察官によって取り押さえられるというのが「現行犯逮捕」です。

対して通常逮捕の場合は捜査などをして犯行が疑われる人物のもとに、警察官が裁判所から発行された逮捕状を持って、窃盗行為が行われた後日逮捕に赴くというものです。

4.業務上横領罪と窃盗罪の起訴を考える

業務上横領罪には罰金刑がないため、起訴されれば必ず懲役刑に処されます。横領した金額が多いほど量刑は重くなり、執行猶予がつけられる場合もありますが、実刑の可能性が高くなります。

また、窃盗罪の場合、窃盗の量刑が軽い場合には略式裁判にかけられ、50万円以下の罰金を支払うだけで済む可能性があります。しかし量刑が重く判断された場合は正式裁判の上で実刑判決が下され、懲役刑になる可能性があります。

ですが横領罪と窃盗罪のどちらの場合でも加害者は弁護人を立て、前科を付けないために示談を望んでくる場合がほとんどです。

その時に会社側が意識しておかなければならないことは、加害者が懲役刑に服し、刑務所に入った時、刑期に服している間は弁済や賠償金を受けられないということです。

なので、会社として奪われたお金だけを取り戻せればそれでいい、と考えるならば起訴をせず、示談という手段を考慮してみてもいいでしょう。

5.会社で業務上横領が起きたときの対処

(1)事実関係の調査・本人の事情聴取

業務上横領が発覚した際は、社内で証拠を集めてから容疑者を事情聴取します。事情聴取前に確認するべきことは以下の6つです。

  1. 「いつ」「いくら」盗ったのか
  2. 横領するために用いられた架空の請求書などがあるのか
  3. 銀行で不正な出金を行っている可能性があるため、銀行の送金伝票写し(銀行に行けば確認できます)
  4. 送金伝票に記載されている筆跡や印鑑が本人のものか
  5. 印鑑の偽造や持ち出しの有無
  6. 横領が疑われる日時の本人の行動

(2)損害賠償請求をする

本人が業務上横領を認めれば、「支払誓約書」を提出させ、損害賠償金の返済を約束させます。その際、請求する際は本人の身元保証書を取得しているかどうかを確認し、身元保証人の返済能力に応じて内容証明郵便による返還請求を行います。

また、横領による損害賠償請求は仮に本人が自己破産をしたとしても請求することが可能です。

(3)懲戒解雇をする

業務上横領を行った社員の処分は懲戒解雇が原則です。ただし、十分な証拠を用意したうえで臨まなければ不当解雇として逆に訴えられてしまう場合があります。

そのため、懲戒解雇に踏み切る前に業務上横領などの犯罪行為が会社の懲戒解雇事由に記載されている事柄を確認し、正当性があることを示すようにしましょう。

また、会社によっては就業規則で「懲罰委員会の開催」が必要となる場合もあります。就業規則で規定されている以上は必要な手続きとなります。これを行わずに懲戒解雇した場合、懲戒解雇が無効になる可能性があります。

(4)刑事告訴

損害賠償金の返済が行われない場合、刑事告訴の手続きを取り、刑事事件として扱う必要があります。

捜査機関に告訴状を提出すると、犯人の取り調べ等を行ったうえで送検され、起訴するかどうかが判断されます。

起訴されると刑事裁判が開かれ、実刑あるいは執行猶予が決まります。

実刑になると懲役刑に服することになるので、犯人としても減刑のため示談を望んでくることが多くなります。そのため損害賠償金の返済に対する意欲が高くなり、損害賠償金の返済などにつながりやすくなります。

6.業務上横領罪と窃盗罪の時効

業務上横領罪・窃盗罪と共に罪に問える公訴時効期間は7年です。これは検察が起訴できる期間です。民法では被害を受けた団体または個人が損害賠償請求を行える権利期間は20年となっており、この期間内であれば損害賠償請求を行うことが出来ます。しかし加害者を知っている場合では3年間で損害賠償請求を請求する権利が消失するので注意が必要です。

まとめ

会社内で横領・窃盗が起こった場合、被害申告をしなければ公の事件にはなりません。内々に処理をするのか、被害申告を行った後、起訴に踏み切るのか示談とするのかはそれぞれの判断によります。

もし自身で判断することが難しいようなら弁護士などを頼り、アドバイスを受けるようにしましょう。

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