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ある日「辞めてくれないか」「この会社には、もう君は必要ないよ」と言われることがあります。絶望で目の前が真っ暗になる気持ちも分かりますが、すぐに「クビになった」など思う必要はありません。
解雇とは、会社による一方的な労働契約の解消のことをいいますが、上記のような場合には「退職勧奨」という労働契約解消の申し込みである場合がほとんどで、退職したくなければこれに応じる必要はないのです。
もし退職勧奨ではなく解雇された場合でも、その解雇が有効か無効かについて争っていくことができますので、簡単に諦める必要はないのです。
ここでは、会社から「辞めてくれ」と言われた時の対処方法についてご紹介します。
1.解雇は簡単にできない
解雇とは、会社から労働者に対する一方的な労働契約の解消を宣言することをいいます。解雇は会社が自由に行うことができる、と思っている方も多くいますが、正当な理由のない解雇は「無効」です。
また、法律で解雇が禁止されている場合(産前産後や仕事によるけが、病気などで休んでいる期間と復帰後の一定期間)もあります。
「会社が倒産してしまった場合」や、「いくら注意を受けても仕事をサボってばかりいた場合」などであれば、解雇が認められることがありますが、「たまに仕事をサボっていた」「うっかりミスをしてしまった」という程度では、正当な解雇とは認められません。
(1) 就業規則の規定が必要
解雇する場合には、通常就業規則にどのような行為があった場合に解雇することができるかについて、規定されています。
労働基準法第89条では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者(会社)」は、退職に関する事項(解雇の事由を含む)について、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならないとされています。
普通解雇の場合であれば、「従業員が身体または精神の障害により、業務に耐えられないと認められる場合」「従業員の就業状況または職務能力が著しく不良で、就業に適さないと判断される場合」などと規定されていますし、懲戒解雇の場合であれば、「無断欠勤14日以上に及んだ場合」「故意または重過失に寄り災害または営業上の事故を発生させ、会社に重大な損害を与えた場合」などと規定されています。
ですから解雇もしくは退職勧奨をされたら、就業規則の規定を確認してみましょう。
もし就業規則がない場合で解雇の有効性が争われた場合には、客観的に見て合理的な理由があるか、解雇が社会通念上相当といえるかについて判断されることになりますし、就業規則という判断基準がない場合には、裁判で会社が解雇権を濫用したと判断される可能性が高くなるといえるでしょう。
(2) 解雇制限がある
前述したとおり、解雇が法律で禁止されている場合があります。
労働基準法第19条では、次に該当する場合には、会社が労働者を解雇できないとされています。
【1】労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間およびその後30日間
【2】6週間以内に出産する予定の女性が、休業を請求した場合と産後8週間を経過しない女性が休業する期間およびその後30日間
ただし注意しなければならないのが、上記の期間の解雇は禁止されていても、「解雇の予告」はしてもよいということです。
解雇予告とは、会社が労働者を解雇する際には、30日以上前から解雇の予告をする必要があるという規定です(ただし、懲戒解雇の場合には「即時解雇」もあります)
(3) 解雇予告(もしくは解雇予告手当)が必要
労働基準法第20条では、会社が労働者を解雇しようとする場合には、30日以上前にその予告をしなければならないとされています。
そして、30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと規定しています。
つまり、もし事前に解雇予告しないで「本日で解雇する」と通告されたのであれば、30日分の平均賃金を請求することができます。
解雇されれば、労働者はその時点から収入がなくなることになるので、労働者保護の観点から再就職準備期間の保障をするためです。
もし30日前に予告がない場合や、30日分の解雇予告手当の支払いがない場合には、会社に厳重に抗議したうえで、すぐに弁護士に相談して下さい。
ただし、解雇予告手当は常に1か月分であればよい、ということではありません。
たとえば10月1日に解雇を通告され、10月19日以降は会社に出勤しないように通告された場合には、18日後に解雇されたことになるため、会社は労働者に「30日-18日=12日」の12日分の解雇予告手当を支払えばよいということになるので、注意が必要です。
また、天変地異などで工場が倒壊した場合は、労働者が重大なミスをした場合の解雇については、解雇予告や解雇予告手当が必要ない場合もあります。
解雇予告手当を請求する場合にも、事前に弁護士に相談することをおすすめします。
2.突然「解雇」と言われたら
会社に「会社を辞めてくれ」とか「もう出社しないでいい」と言われたら、まず冷静に「それは解雇ですか。それとも退職勧奨ですか」と冷静に確認するようにしましょう。
解雇された場合には、その解雇が無効か有効か、交渉や裁判などで争うことができますし、退職勧奨の場合には、「いいえ辞めません」といえば、労働契約が解消されることはありません。
(1) 納得できない場合は安易に応じない
退職勧奨を受けた場合に、もし退職したくないのであれば、きっぱりと断り堂々と働き続けましょう。退職届なども出す必要はありません。
もしその結果嫌がらせを受けたり執拗に退職を迫られたりした場合には、それは退職勧奨ではなく「退職強要」に該当し、違法となります。
もし嫌がらせなどされた場合には、ICレコーダーで録音したり、どのようなことを言われたか、どのようなことをされたか克明にメモをしておきましょう。
後々の交渉や裁判で有力な証拠とすることができます。
また、解雇について納得できない場合にも解雇の無効について争うことができるので、できる限り証拠を集めておきましょう。
(2) 能力不足の解雇の場合
昨今、「能力不足」を理由として解雇になってしまったという相談が増えています。
しかしその相談のなかには、到底達成できないような過剰なノルマを課せられ、「達成できない、能力不足だ」と言われたケースや、職場のいじめで仕事を任されず、「仕事をしない」などと言われたケースも多々あります。
しかしこれらのようなケースは、ほとんどが違法な解雇です。
このような「能力不足を理由とした解雇」はほとんどのケースで争うことができるので、泣き寝入りする必要はありません。
能力不足を理由とした解雇が許されるのは、会社が教育をしっかり行ったり配置転換をしたにもかかわらず、本人に改善する気が全くない場合などに限ります。
(3) けがや病気の解雇の場合
会社は、労働者のけがや病気を理由にして、すぐに解雇することはできません。
労働基準法第19条では、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間およびその後30日間は解雇することができないとされています。
また就業規則には休業についての規定があるはずです。
病気やけがをした場合に何か月の休業が認められるか、という規定があるはずなので、きちんと確認してみましょう。この休業期間中は、会社は従業員を解雇することはできません。
(4) 整理解雇の場合
整理解雇とは、会社が経営上うまくいかないため、やむをえず労働者を解雇することです。
他の解雇と異なり、整理解雇は会社側の事情によることになりますので、より厳しく判断されることになっていて、具体的には以下の4つの要件を満たすことが必要とされています。
* 人員削減の必要性
人員削減を実施する際に、不況、経営上の必要性が強く求められていることが必要です。
* 解雇回避努力
賃金カットや経費削減など、会社が労働者を解雇する以外の手段で、できる限り解雇を回避するために努力することが必要です。
* 被解雇者選定の合理性
解雇する労働者を選定する際には、客観的で合理的な基準を設定することが必要です
* 手続きの妥当性
労働者と誠意を持って協議し、労働者の納得を得るよう努力をした、などの手続きの妥当性が必要です。
(5) 懲戒解雇の場合
会社は、社内のルールを破ったり、会社に損害を与えた労働者を解雇することができます。これを「懲戒解雇」といいます。
懲戒解雇は、労働者に対する「罰」なので、多くの場合退職金や解雇予告手当が支払われません。つまり会社への負担が軽くて済むことになるので、ブラック企業では労働者に嫌がらせをして、解雇するほどの理由がないのに懲戒解雇する場合があります。
もし懲戒解雇された場合には解雇理由を確認し、「解雇理由証明書」を会社に請求しましょう。もし違法な懲戒解雇であれば、弁護士が介入して抗議を行うことで、会社が解雇を撤回する場合もありますし、裁判所で解雇の無効を主張することができます。
以上、解雇といわれた時の対処方法や確認事項についてご紹介してきました。
解雇と言われるとショックを受けますし、「これから、どうしたらいいか分からない」と冷静になれない、なかなか方がほとんどですし、それも無理のないことです。
しかしこれまで述べてきたように、解雇はそんなに簡単に認められるものではありません。すぐに諦めてしまう必要はありません。これまで不当解雇の問題を多く扱ってきた弁護士に相談し、冷静に対応するようにしましょう。