未払い残業代の内容証明郵便の書き方

残業代
残業代

法律上、残業代などの賃金請求権(退職金をのぞく)には、権利が発生してから2年で消滅時効が到来します(労働基準法115条)。

ですから、未払いの残業代を請求したいと考えている人は、その時効が到来する前に、早々に請求時期や内容について証拠を残すため、会社に対して内容証明郵便による請求をするべきです。

内容証明郵便は、法律上「催告(支払いしてくださいという意思表示)」(民法153条)の意味をもち、時効による消滅を一時的に免れる効果があります。

1. そもそも「残業代不払い」の問題とは

時間外に労働をした際や、休日労働した際、深夜労働をした際には、それぞれの時間帯に応じた割増率に基づいた、割増賃金を支払う必要があります。

管理職、年俸制、歩合制、固定残業制、みなし労働制など「割増の残業代の請求ができない」と思わせるような仕組みをとっている会社も多くありますが、法律上は請求できるケースが多いので、すぐに諦めてしまう必要はありません。

(1) 残業代が請求できるケースは多い

たとえば、役職手当や営業手当があることを理由に残業代が支払われていない場合がありますが、役職手当や営業手当は残業手当とはまったく別のものです。

その手当が支給されているからといって、その手当が当然に、残業に対する手当としての性質をもつという訳ではないのです。

そもそも役職手当や営業手当は、従業員の職務遂行能力や職責に対する手当として支給されているものですし、役職手当や営業手当に残業手当を含めるためには、就業規則等で「役職手当は残業代に充当する」等の記載をする必要があります。

また仮に、役職手当や営業手当が残業代の性質を有していたとしても、実労働時間に基づく残業代が支給額を上回る場合には、会社に対してその不足分を請求することができます(ユニコン・エンジニアリング事件・東京地判・平成16年6月25日)。

(2) 残業代請求権は2年で消滅する

ここで注意しておきたいのが、残業代などの賃金を請求する権利は、2年で時効になり消滅してしまうという点です(労働基準法115条)。

つまり請求しないままの状態が続くと、毎月毎月2年前の残業代が時効で消滅していくことになってしまいます。

(3) 内容証明郵便で時効を中断できる

請求すれば取り戻せる未払いの残業代があるなら、請求できなくなってしまう前に、まずは内容証明郵便による請求を会社に送付しましょう。

内容証明郵便には、法律上は「催告(支払いして下さいという意思表示)」(民法153条)という意味があり、この催告をすると時効による消滅を一時的に免れることができます。

2. 内容証明郵便とは

内容証明郵便とは、「いつ」「誰から」「誰に宛てて」出した文書なのかを日本郵便が証明するものです。

内容証明は3通作成して、1通を相手方に送付し、1通を郵便局が保存し、残りの1通は差出人の手元に残します。

(1) 通常は配達証明をつける

内容証明郵便は「いつ、誰に、どういう内容の書面を差し出したか」を証明する文書ではありますが、「いつ相手に届いたか」を証明する文書ではありません。

場合によっては、相手に「そんな文書は届いていない」と主張される可能性がないわけではありません。

そこで通常は郵便物の「配達した年月日」を証明するために、「配達証明」の制度を利用します。

配達証明とは書留の場合に認められるもので、配達した日を記したはがきを、後日送ってくれる制度です。

(2) 内容証明郵便のルール

内容証明郵便には、文字数や行数に決まりがあります。

* 横書き……1行20文字以内、1枚につき26行以内または1行26文字以内で1枚20行以内、または1行13文字以内で1枚40行以内

 

* 縦書き……1行20文字以内、1枚につき26行以内

上記の範囲以内なら、何字でも何行でも構いません。用紙も自由で枚数も制限はありませんし、手書きでなければならないというルールもありません。

ただし、文字数制限や行数制限をはみ出してしまうと、様式を満たしていないとして、受け取ってもらえませんので注意しましょう。

また、複数枚にわたる場合には、割印が必要となります。

(3)内容証明郵便の文例

内容証明には、事実を正確に記載して、法的根拠を述べ、主張や要求を明確に記載します。感情的な記述など余分なことは書かずに、簡潔に書くことが重要です。

また事情によっては、「法的措置も検討している」という強い姿勢を明確にすることも必要となります。

 

【内容証明郵便 文例】

 

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請求書

謹啓

時下ますますご清祥のこととお慶び申し上

げます。

さて私は、平成○年○月○日に御社に入社

し、平成○年○月○日に退職いたしました。

御社勤務中は、販売第一部や営業第一部に

て業務に従事しておりましたところ、その間

の残業時間は、月あたり50時間から80時

間ほどでした。

しかしながら、御社においては、残業月2

0時間を超える部分については、いわゆる「

サービス残業」が強要され、実際の残業時間

を上司に申請し承認を受けることは事実上不

可能な状態でした。そのため私は、御社に入

社以来の○年間、下記のとおり割増賃金の支

払いを受けることができませんでした。

そこで、以下の割増賃金合計○円と遅延損

害金をお支払いくださいますよう、お願いい

たします。

 

平成○年分合計○○円

(未払いの残業代と退職日までの年5パーセ

ントまたは年6パーセントの遅延損害金の合

計額。)

 

うち○○円

(未払い残業代の額に対する退職日の翌日で

ある○年○月○日から支払済みまで年14.

6パーセントの割合による遅延損害金)

 

○年○○月○日までに○銀行○支店 ○預金

口座番号○○ 口座名義人○○に振り込む

方法によってお支払いください。

 

以上

謹白

 

平成○年○月○日

東京都○○区○○町1-2-3

残業未払い株式会社

代表取締役 ○田○男 殿

 

東京都○○区○○町3-4-5

○沢○子

 

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(4) 電子内容証明サービス

日本郵便には「電子内容証明(e内容証明郵便)」というサービスがあります。

電子内容証明(e内容証明郵便)なら、字数行数の制限はありませんし、24時間受け付けてもらうことができます。

(5) 別途必要となる法的手続き

前述したとおり、内容証明郵便には、法律上は「催告」(民法153条)という意味があり、この催告をすると時効期間の延長することはできます。しかし催告したからといって、ずっと時効を中断しておくことができるわけではありません。

 

催告をしても時効期間が6か月延長されるにすぎませんので、時効を中断するためには、内容証明郵便によって催告をしたうえで、半年以内に提訴するなどが必要になります。

 

「催告から6か月以内に」に、提訴等の必要な手続きをとらないと、せっかく内容証明郵便を出しても催告の効力が失われてしまうので、注意しましょう。

 

内容証明郵便の書き方や、相手と交渉するうえで必要となる証拠類、提訴等の手続きについては、早めに労働問題に詳しい弁護士に相談して、アドバイスを受けることをおすすめします。

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