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名ばかり管理職や定額制の時間外労働など、残業代不払いの問題は近年益々増加傾向にあります。残業代が支払われない会社は、いわゆるブラック企業である場合も多いため、「残業代を支払ってほしい」とか「体調がきついので、残業したくない」など、とても言い出せない場合も多く「未払いの残業代はもういらないから、早く転職したい」と思う人も多いようです。
しかし残業をすることは当たり前であってはなりませんし、残業代が支払われないことは違法である可能性が高いのです。
未払いの残業代は、あなたが当然受け取れるはずの賃金です。
転職する前に、ぜひ未払いの残業代を取り戻しましょう。
1.残業代とは
残業代について考える際には、まず「残業とは何か」を知っておく必要があります。
労働基準法32条では、「週40時間、1日8時間」を超える労働を労働者にさせてはならないと規定しています。
そしてこの「週40時間、1日8時間」を法定労働時間といい、法定労働時間を超えて労働させた場合には、会社は労働者に対して割増賃金(残業代)を支払う必要があります。
2. 残業代が出ないのは違法?
みなし労働制や管理監督者、職務手当などを理由に、残業代を支払わない会社は数多く存在します。
未払いの残業代の裁判といえば、記憶に新しいところではマクドナルド店長訴訟があります。
マクドナルドの店長が、店長になったことが管理監督者に当たるとして残業代を支払わないのは違法である、と訴えを起こしたのです。
この裁判の結果、会社側は「名ばかりの店長」であったことを認め、2年分の未払い残業代など約1000万円を支払うことで和解が成立しました。
この裁判は、「勇気を出して声を上げれば、未払いの残業代は取り戻せる」という代表的な事例といえます。
未払いの残業代は、勤続年数が長ければ長いほど、大きな金額になります。
そもそも、残業代が支払われない会社で働き続けること自体が問題です。
そのような会社には、早々に見切りをつけ、しっかりと未払いの残業代を取り戻してから転職を考えるのも一策です。
(1) みなし労働
労働基準法38条の2第一項では、営業など上司の目が直接届かない会社の外で仕事をする人や、研究開発職などの自由裁量の余地がある仕事をしているひとたちについては、会社が労働時間の管理をすることは合理的でないとして、所定労働時間勤務したとみなしてよいと規定されています。
これを「みなし労働制」といいます。
この「みなし労働」を適用するためには、出勤時間や退社時間、ランチタイムなどの時間配分を、従業員が自分の裁量で決めている実態が必要となります。
しかし実際には、出勤時間も退社時間も上司にしっかり管理されていて従業員の自由裁量で時間配分が行われているとは言えないのに、残業代カットの目的でみなし労働制を採用する会社があります。
(3) 管理監督者
課長などの管理職ポストに昇進すると、「管理監督者だから残業代を出さない」という会社が多く存在します。これが、いわゆる「名ばかり管理職」の問題です。
労働基準法41条では、「管理監督者」には労働時間、休憩、休日の規定を適用しないと規定していて、法律上残業は存在しないとしています。
しかし労働基準法41条の「管理監督者」とは、部長や工場長など、労働条件の決定やその他の労務管理について、経営者と一体的な立場にある者」のことです。
課長くらいの管理職ポストに昇進したからと言って、「経営者と一体の立場」とはいえず、「課長に昇進したから、残業代はカット」という会社側の本心は、残業代をカットしたいことが理由である場合がほとんどです。
(4) 定額制の時間外労働手当
一定額の時間外労働手当を払っておけば、無制限に時間外労働をさせることができると思い込んでいる会社も多く存在します。
しかし想定した時間外労働時間数より、実際の労働時間の方が多ければ、その不足した分は請求することができます。
3. 転職する前に未払い残業代を請求しよう
みなし労働や定額制の時間外労働手当を支払っていることを理由に、残業代を支払わない会社は、いわゆるブラック企業である場合も多いため「どうせ言っても無駄だ」と諦めてしまい、残業代を請求しないまま転職をする人もいます。
しかし未払いの残業代を請求しないまま転職しても、後から入ってくる後輩の社員たちが、同じようにサービス残業を強いられることになってしまう可能性が高いのではないでしょうか。
残業代は「残業をした人の賃金」です。転職する前にしっかりと請求しましょう。
(1) 証拠次第で取り戻せる額が変わる
未払いの残業代を請求する場合には、まず事実を裏づける証拠書類を揃える必要があります。
会社側と直接交渉する時でも、労働基準監督署に相談する時でも、労働審判等になった時でも、すべて証拠が決め手になります。
証拠書類の確実性のレベルによって、取り戻せる額が変わってくると言っても過言ではありません。
ですから未払いの残業代を請求する場合には、残業をした実態を示すデータと、残業に見合った割増賃金が支払われているかどうかを証明する給与明細書は、準備しておくとよいでしょう。
ただしこれらの資料が準備できない場合でも、事情に応じて入退館記録などが証拠になる場合もあります。
どのような資料を証拠とできるかについては、個々の職場の事情や勤務形態によっても異なりますので、早めに弁護士に相談して確認しておきましょう。
(2) 請求は第三者の介在がないと難しい
未払いの残業代を会社側に直接交渉しても、話し合いに応じてくれないケースが多いのが実情です。
話し合いに応じてくれる会社でも、提示する証拠書類が曖昧だったり、残業代の計算が不正確だったりすると、協議が難航してしまうこともあります。
未払いの残業代問題を解決するためには、やはり第三者の介在があった方が心強いケースが多いでしょう。
(3) 弁護士に相談する
残業代を請求するためには、証拠となる資料を準備し、残業した時間帯ごとに異なる割増率に従って残業代を計算して会社側に提示し交渉したり、内容証明郵便を送付したりと、さまざまな手続きが必要ですが、残業代を請求する権利は2年で時効となってしまいます。
この2年という時効を、「退職してから2年」と思っている人もいますが、「給料日から2年」なので、注意が必要です。
つまり、これらの作業に時間を費やしている間に、毎月毎月2年前の給料が時効にかかっていることになるわけです。
弁護士に相談すれば、時効がくるまえに請求時期や内容について証拠を準備し、内容証明郵便による請求を行い、時効による権利の消滅を免れる手続きを行ってくれます。
また場合によっては2年より前の残業代についても、「不法行為に基づく損害賠償」として請求できるケースもあります。
ぜひ早めに、労働法令に詳しく個別労働紛争の経験が豊かな弁護士に相談することをおすすめします。
(4) 労働基準監督署に相談する
労働問題についての相談先というと、「何でも労働基準監督署が対応してくれる」というイメージを持っている人もいますが、労働基準監督署はトラブルを解決してくれる機関というよりも、むしろ「会社の行為を是正する機関」です。
未払いの残業代を支払うよう、命じてくれるわけではありませんので、未払いの残業代を取り戻したいなら、やはり弁護士に相談するのが得策でしょう。