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労働基準法では、時間外の労働、休日の労働、深夜労働(午後10時から午前5時までの時間帯に働いた場合)には割増賃金を支払う必要があると規定しています。
そして残業が深夜まで及ぶ場合には、+25%増しの割増賃金を支払う必要があります
(地域や期間によっては、午後11時から午前6時までを深夜業の時間帯とする場合もあります)。
深夜残業代を支払わないケースは違法であることがほとんどです。諦めずに請求しましょう。
1.深夜業とは
深夜業とは、所定労働時間内であるか否かを問わず、午後10時から午前5時までの時間帯における労働をいい、労働者に深夜労働をさせた場合には、会社は+25%増しの割増賃金を支払う必要があります。
(2) 深夜業の割増率
時間外労働をした場合でも、会社は+25%増し割増賃金を支払う必要がありますが、時間外労働が深夜まで及んだ場合には、1.25+0.25の1.5%増しの割増賃金を支払う必要があります。
ただし、深夜割増賃金も含めて所定賃金が定められていることが就業規則や労働協約などで明らかな場合には、深夜割増賃金を請求することはできません。
(3) 深夜業が禁止されている人
深夜の労働は、会社が命じたり本人が希望すれば、誰でもできるというわけではありません。
以下の人は深夜業をすることが禁止されているので、注意しましょう。
* 満18歳未満の年少者(労働基準法61条1項)ただし交替制によって使用する満16歳以上の男性である場合には、事前に所轄労働基準監督署長の許可を得ていれば労働させることができる場合もあります。 * 妊産婦や育児介護する労働者妊産婦(妊娠中および産後1年未満の女性)や、小学校就学前の子を養育または要介護状態の家族を介護する男女労働者(日々雇用など対象外労働者あり)が請求した場合にも、深夜に労働させてはなりませんとされています。 |
(4) 深夜の割増賃金は管理監督者にも適用される
割増賃金には例外があり、管理監督者や、専門業務型あるいは企画業務型の裁量労働制、事業場外のみなし労働時間の対象者については、労働時間に関する規定の適用を受けないため割増賃金を支払う必要はないとされています。
しかし最高裁では、深夜労働が労働者の心身の健康上に及ぼす負担が大きいので、管理監督者も労働基準法37条4項により、深夜割増賃金を請求できるとしました(最高裁第二小法廷・平成21年12月18日)。
つまり管理監督者やみなし労働時間制、変形労働時間制の労働者であっても、22:00から翌日5:00までの深夜時間帯に勤務することがあるときには、会社はその労働者のその時間を把握し、通常の時間給の25%で計算した深夜割増手当を支給しなければなりません
2. 未払いの深夜残業代を取り戻す方法
深夜に労働せざるを得ない状況があったにも関わらず、残業代(割増賃金)の支払いがされていない場合には、会社側に残業代の請求をすることができます。
ここでは、未払いの深夜残業代を取り戻す方法をご紹介します。
(1) 証拠を収集しよう
未払いの深夜残業代を取り戻すためには、まず「深夜に労働したこと」を立証できる証拠が必要です。
証拠としてはタイムカードや入退館記録、メールの送信時間などが有力な証拠になりますが、そのほかにもメモ書きなども証拠となる場合もあります。
「何が有力な証拠となるか」は個々の状況に応じて違いますので、早めに弁護士に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。
(2) 内容証明郵便
会社に残業代を支払うよう、口頭や普通の文書で求めてすんなり対応してくれれば良いのですが、そのようなケースは稀です。
そもそも残業代を支払わないような会社なのですから、「残業代は出ないと最初に言ってあったはずだ」と言われたり「残業代を請求された覚えなどない」などと誠意ある対応をしない会社がほとんどです。
ですから、会社に残業代を請求するときは、内容証明郵便を送付するのが一般的です。
内容証明郵便とは、いつ・誰から・誰宛てに、どのような内容の文書を出したかと日本郵便は証明してくれるものです。
証拠能力が高いので後々争いになった場合に備えることができますし、口頭や普通の文書で請求するよりも相手にプレッシャーを与えることができます。
また残業代の請求権は2年という消滅時効がありますが、内容証明郵便には催告の意味もありますので、この時効を一時的に中断する効果もあります。
ただし内容証明郵便による時効の中断の効果はあくまで一時的で、時効を6か月延長できるだけなので、時効を中断するためには内容証明郵便による催告をしたあと、半年以内に提訴するなどが必要となります。
(3) 支払い督促
支払督促とは、相手側に金銭の支払を要求する簡易裁判所の制度です。
残業代や給料・交通費等など、労働者が当然受け取れるべき賃金を請求しているにも関わらず、相手が払ってくれない時などに利用できます。
会社側が支払う必要がないとして異議を申し立てた場合は、通常の訴訟に移行されます。
(4) あっせん制度の利用
あっせんとは、残業代などの労働関係に関するトラブルについて当事者間での話し合いがまとまらない場合に、労働問題の専門家(あっせん委員)が介入してアドバイスを行うなどして、紛争の解決を援助する制度です。
審判や裁判より心理的なプレッシャーはかからないものの、あっせん自体に法的拘束力はないため、会社側が最初から支払いを明確に拒絶していて、話し合う意思を持っていない場合には、あっせん制度を利用するメリットはあまりないかもしれません。
(5) 労働基準監督署への申告
労働基準監督署とは、残業代や労働時間などの労働条件確保・改善の指導、安全衛生の指導、労災保険の給付などの業務を行っている機関です。
労働基準監督署への申告は匿名で行うことができますが、その場合には原則として「申告」と取り扱わず「情報提供」という形で取り扱います。
また労働基準監督署は、会社に是正するよう指導は行ってくれますが、この指導に強制力はなく、未払いの深夜残業代を支払うよう命令してくれるわけではありません。
(6) 弁護士への相談
深夜に労働したにも関わらず割増賃金が支払われていないのであれば、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
相談したからといって、必ずしも依頼しなければならないわけではありませんし、何が証拠になるのかなどのアドバイスをもらうだけでもメリットが大きいはずです。
また前述したように、残業代などの賃金請求権の消滅時効は2年と短いので、早めに請求をしないと、もらえるべき賃金を取り戻せなくなってしまいます。
なにより深夜の労働は心身に与える影響も大きく、健康に被害を与えかねません。
「深夜の労働が続き、割増賃金の支払いもない」というような状況が続いているのであれば、1日も早く弁護士に相談してアドバイスを受け、転職することも含め検討を始めましょう。