労災保険とは、従業員が仕事中や通勤中に事故や災害などに遭って、ケガをしたり病気になったり、体に障害が残ったり、死亡した場合などに保障を行う制度です。
うつ病などの精神疾患も、労災補償の対象となりますが、そのためにはその精神疾患の病気が「業務に起因した」といえることが必要です。
また、職場の上司からのいじめで精神障害を発症し、自殺した場合も、労災補償の対象となる場合があります。
1.労災とは
労災保険とは、従業員が仕事中や通勤中に事故や災害などに遭って、ケガをしたり病気になったり、体に障害が残ったり、死亡した場合などに保障を受けることが出来る制度です。
労働基準監督署が「労災認定」すると、療養給付や休業補償給付、障害補償給付、傷病補償年金などの給付を受けることができます。
(1)精神疾患も労災補償の対象
うつ病やパニック障害などの精神疾患にかかったことの主な原因が業務である場合には、その精神疾患も労災補償の対象となります。
業務が主な原因であると言えるかどうかについては、「職場における心理的負荷評価表」を用いて判断します。
この職場における心理的負荷評価表には、次のようなことが挙げられています。
* 対人関係のトラブルが持続している
* 職場内で孤立した状況になった
* 職場での役割・居場所がなくなった
* ノルマが達成できなかった
* 顧客や取引先から無理な注文を受けた
* 職場の作業環境(騒音・照明・湿度・温度・換気・臭気)が悪くなった
* ひどい嫌がらせを受けた
* セクハラを受けた
* 上司、部下、同僚とトラブルがあった
* 1か月に80時間以上の時間外労働を行った
上記のほかにも職場の環境や人事異動などの調査項目もあり、さまざまな点について労基署が調査してから労災補償が給付されるかどうかが決まることになります。
参考:厚生労働省「精神障害の労災認定」 |
(2) 労災補償の対象となる疾病
精神疾患のうち、労災補償請求の対象となる疾病は以下に挙げるとおりですが、これらの疾病を発症する前の6か月間に、客観的に当該精神障害を発病させる恐れのある業務による強い心理的負荷を受けたことが認められることが必要です。
* 症状性を含む器質性精神障害(認知症など脳が障害を受けること)
* 精神作業物質使用による精神および行動の障害
* 統合失調症、統合失調型障害および妄想性障害
* 気分(感情)障害
* 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
(3) 労災補償の対象とならないケース
業務以外の心理的負荷や、「本人が持っている要因(個体側要因)」によって精神障害を発症した場合には、労災補償の対象とならない場合があります。
「本人が持っている要因(個体側要因)」としては、次のようなことを指します。
* 既往歴
精神障害の既往歴が認められる場合には、本人が持っている要因(個体側要因)として考慮されます。また、治療のために医薬品を使用していた場合には、医薬品による副作用も考慮されます。
* 生活史(社会適応状況)
過去の学校生活、職業生活、家庭生活等において適応の困難があった場合には、それも本人が持っている要因(個体側要因)として考慮されます。
* アルコール等依存状況
アルコール依存症とは診断できない場合でも、軽いアルコール依存傾向があると、身体的に不眠、食欲低下、自律神経症状が出ることがあります。そして、逃避したくなったり自暴自棄の衝動に駆られ自殺行動をしてしまうケースがあることがありますので、軽いアルコール依存傾向がある場合も、本人が持っている要因(個体側要因)として考慮されます。
過度の賭博好きなどの破滅的行動傾向(破壊的行動を繰り返す障害)がある場合にも、同様に考慮されます。
(4) いじめで自殺も労災
労災保険法第12条の2の2 第1項)では、「労働者が、故意に負傷、疾病、障害もしくは死亡またはその直接の原因となった事故を生じさせたときには、政府は、保険給付を行わない」と規定されていて、以前は、「自殺は自分で故意に死を選んだことになる」として、以前は労災補償の対象とはならないとされていました。
しかし今日では、精神疾患にかかり、「自殺をやめよう」とする正常な精神の働きがが阻害された結果、自殺してしまった場合には、この条文の適用外であるとされています。
「当該精神疾患が業務が主たる原因で罹患(りかん)したものであるならば、その疾病の結果としての自殺も労災補償の対象となる」とされています(平成11年9月14日 基発第544号、改正平成21年4月6日 基発第0406001号)。