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セクハラは「セクシャル・ハラスメント」の略で、一般的には「相手の意に反する性的言動・性的嫌がらせ」のことをいうとされています。
「相手の意に反する性的言動・性的嫌がらせ」といっても、それらがすべて違法となるわけではなく、モラルの観点でいえばふさわしくないといったレベルのセクハラもあります。
それでは、どのような行為が名誉棄損罪や強制わいせつ罪に該当するセクハラなのでしょうか。
1.セクハラの要件
男女雇用機会均等法では、セクハラについて「『職場』において行われる(労働者の意に反する『性的言動』に対する『労働者』の対応によって、当該労働者の『労働条件について不利益を受けた場合』または、性的言動によって当該労働者の『就業環境が害される場合』に成立するとしています。
相手が嫌がっているにも関わらず、抱きついたりキスしたり胸を触ったりする行為は当然セクハラです。また、このような身体的接触がなくても、「処女か、初体験はいつか」などと質問をしたり「〇〇ちゃんとセックスしたい」など、肉体関係を迫る発言も、セクハラに該当します。
(1) 「職場」じゃなくてもセクハラ?
男女雇用機会均等法でいう「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指します。
この「職場」は広く解されていて、事業所だけでなく、打ち合わせが行われるカフェ、取引先の自宅、打ち上げで行ったカラオケボックスであっても、実質上職務の延長と考えられる場合には、「職場」に該当します。
どこが「職場」に該当するか否かは、職務との関連性や、その場に参加するのが強制的であったか任意であったかなど、個別の事情も含めて判断されます。
(2) どこまでが「性的な言動」?
「性的な言動」とは、性的な内容の発言や性的な行動を指します。男性だけでなく女性からの性的言動も含まれます。「まだ結婚しないの」「子どもを早く産め」「髪がきれいだね」など、世間話のつもりでかけた言葉でも、相手が不快に思えば、セクハラに該当する場合があります。
部下の女性を「〇〇ちゃん」と呼ぶ行為も同じで、自分では親しみを込めて呼んでいるつもりでも、女性が不快に感じればセクハラになることもあります。
女性の上司が男性部下に対して「男らしくない」「男のくせに」などと発言することもセクハラです。つまり、たとえ、わいせつな言葉でなくても、相手が「性的な嫌がらせ」だと感じれば、セクハラと判断される可能性があります。
さらに、厚生労働省の指針が平成25年に改正されたことを受けて、男性から男性、女性から女性への性的言動も男女雇用機会均等法11条に含まれることが確認されました。
2. セクハラの判断基準
セクハラの被害者が加害者に対して損害賠償請求をする場合には、「相手の意に反する性的言動」のすべてが違法と評価されるわけではありません。
それでは、裁判所はどのような行為をセクハラと認定するのでしょうか。そしてどのようなケースが違法だと判断しているのでしょうか。
(1) 1回でアウト?
相手の意に反する身体的接触を受け、被害者が強い精神的苦痛を受けた場合では、1回でも就業環境を害すると判断され、セクハラに該当します。
身体的接触以外のセクハラ行為の場合には、「心身に重大な影響を受けていることが明らかな状態」または「明確に抗議しているのに放置された状態」に、セクハラに該当すると判断されます。
「就業環境を害されたか否か」の判断は、被害者本人の感情や主観が重視されますが、それだけでなく「平均的な女性労働者の感じ方」も基準にして判断されます。
また、男性が被害者の場合には、「平均的な男性労働者の感じ方」を基準にして判断されます。
(2) 同意がある場合は?
セクハラ加害者の言い訳としてよくあるのが、「被害者も同意していた」という主張です。
しかし、いくら被害者が同意していたとしても、上司が自らの権力を行使して、性的な関係を強要していたとすれば、性的な関係が仮に被害者の同意のうえでなされていたとしてもセクハラに該当します。
ただし、性的な関係について、当時者が真意で同意している場合であれば、セクハラには該当しないことになります。
「真意に基づく同意」と言えるかどうかについて、裁判所では、個々の状況に応じて、どのような経緯または理由によって為されたのか、加害者が被害者にとって優越的地位にあるか否かなど、さまざまな事情に基づいて判断されます。
3. 裁判所が「違法」と判断したら
裁判所がセクハラ行為を違法と判断した場合には、加害者のみならず会社も法的責任を負います。
民法715条に基づく責任
従業員である加害者が被害者に対して不法行為責任(民法709条)を負う時、使用者である会社も加害者同様の責任を負います。
加害者のセクハラ行為が、飲み会や帰りのタクシーのなかで行われたとしても、原則「業務の執行につき」なされたものと判断されます。
民法415条に基づく責任
会社には、労働者にとって働きやすい環境をたもつために配慮すべき義務である「安全配慮義務」を負います。
男女雇用機会均等法違反
男女雇用機会均等法で規定されている「セクハラを防止するために雇用管理上講ずるべき措置」を使用者が怠った場合には、安全配慮義務違反行為に基づく債務不履行責任(民法415条)を追及される可能性があります。