退職後に残業代を請求する方法

残業代
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未払いの残業代を請求する場合、ほとんどのケースで退職後に請求しています。

在職中は「職場の居心地が悪くなりそうだから」と躊躇したり、会社に遠慮して残業代を請求できないでいた人も、退職後に「やはり未払いの残業代を取り戻したい」と思うケースが多いようです。

ただし残業代は2年という消滅時効があり、時効が到来するとほとんどのケースで残業代を請求できなくなってしまいます。

退職後に未払いの残業代を取り戻したいと思っている人は、できれば退職する前に弁護士に相談するなど、早めに行動を起こすことをおすすめします。

1.退職後に残業代は請求する際の注意点

退職後に残業代を請求するうえで、もっとも注意したいのが2年という時効の問題です。

もし今まだ在職中の方は、在職中にできるだけ多くの証拠を確保しておきたいものです。

(1) 必要資料の準備

残業代を請求するためには、未払いの残業代があることや、その残業代がいくらなのかなどを請求する側が立証する必要があります。

立証するためにはタイムカードや給与明細、入退館記録などの証拠が必要ですが、給与明細は捨ててしまったという人も多く、タイムカードや入退館記録などは在職中でも確保が難しいくらいなので、退職後に手に入れようとしても難しい場合がほとんどです。

ですから、早めに弁護士に相談してアドバイスをもらい、可能な限り在職中にできるだけ多くの証拠を準備しておくのが大切です。

(2) 時効

退職後に未払いの残業代を請求する場合は、2年という時効に注意しましょう。

この「2年」という時効を「退職してから2年」と勘違いし「退職から2年以内に請求すれば、在職中の残業代をすべて請求できる」と思っていらっしゃる人がいますが、残業代の消滅時効は「毎月の給料日」から2年です。

つまり毎月の給料日に未払い残業代の時効が始まっているのです。毎月毎月の給料日に2年前の残業代を請求する権利が失われていることになるのです。

未払いの残業代を請求したいと考えている人は、取り戻せるはずの残業代が時効にかかってしまう前にぜひ早めに行動を起こすようにしましょう。

(3) 遅延損害金

未払いの残業代について、遅延損害金を請求することができます。

遅延損害金とは、残業代を支払うべき期限が経過したことで、法律上当然に支払わなければならない金銭のことす。在職期間中の残業代については支払期日の翌日から年6%の遅延損害金を請求できます。

なお退職した場合には利率が高くなり、退職日の翌日からの遅延損害金は年14.6%となります。

(4) 付加金

付加金とは、労働基準法上支払いが命じられている会社に対して、労働者が請求することで裁判所が支払いを命じる金銭のことです。

付加金は残業代を請求すれば当然支払われるというものではなく、労働者が請求したときのみ、裁判所が検討し決定するものなので、注意しましょう。

労働者が裁判所に付加金を請求すると、裁判所が労働基準法違反の態様、労働者の受けた不利益の程度など諸般の事情を考慮して、支払いの有無が付加金の額を決定することになります。

2. 退職後に残業代を請求する方法

ここまで述べてきたとおり、退職後に残業代を請求する場合には、2年という時効があることもふまえ、早めに証拠などの資料を準備するなどの行動を起こす必要があります。

ここでは退職後に残業代を請求するための、具体的な方法についてご紹介します。

(1) 証拠などの資料の準備

残業代を請求するためには、未払いの残業代があることや、残業した時間を算出するための証拠が必要となります。

これらの事実を立証するための証拠は、タイムカードや出勤簿、給与明細だけではありません。過去の裁判例では、下記の資料も有力な証拠として認められています。

しかしどのような証拠が必要になるかについては「これがあれば絶対大丈夫」といえるようなものはなくケースバイケースで違ってきます。早めに弁護士に事情を説明して、個々の状況に応じて必要となる証拠について、アドバイスをもらうとよいでしょう。

 

* タイムカード

退職後にタイムカードを提出するよう会社側に求めても「もう手元に保管していない」とか「タイムカードと実労働時間は合致していない」などと反論されることがあります。

しかし使用者には、労働時間の安全配慮および賃金算定義務などの関係から、労働時間を把握する義務がありますし、タイムカード・出勤簿などを、最低3年間保存しておく義務があります。

* 労働時間管理ソフト

IT環境の普及により、労働時間管理ソフトがタイムカードの代替とする会社もも多くなりました。

しかし労働時間管理ソフトは、ソフトによって仕組みが異なりますので証拠として使用できるか否かは個々の事情によって判断することになります。

なおパソコンを使う仕事の場合には、パソコンのログイン・ログオフ時間で、労働時間を立証できる場合があります。

* 入退館記録

複数の企業が入居している大規模なビルの場合には、セキュリティ対策として、警備会社に警備を委託している場合があります。

その警備会社が、労働者の入退館時刻を明らかになる資料を持っていれば、客観性の高い証拠資料となりえます。

* メールの送信時刻

メールの送信時刻も、実労働時間の証拠になる場合があります。

* 給与明細書

給与明細書には、総労働時間や所定外労働時間数の合計が、印刷されている場合がありますし、残業代を計算するときの基礎となる基本給も記載されています。

給与明細は捨ててしまう人も多いのですが、きちんと手元に保管しておきましょう。

* 開店・閉店時刻

飲食店、美容院などでは、その店舗の開店時間と閉店時間で、労働時間を立証できる場合があります。

ただしこの場合には、開店から閉店までその労働者が仕事をしていたという証拠が別途必要になります。

* 労働者のメモ書き

使用者(会社)側が時間管理をまともに行っていない場合には、労働者が自分で労働時間をメモするのも証拠となる場合がありますが、毎日具体的にメモをとることが必要です。

また、そのメモだけで証拠とするのは難しい場合には、そのメモの信ぴょう性を示す証拠が別途必要になったりします。

(2) 残業代の計算

残業代を計算するときには、まず1時間当たりの賃金額を算出し、残業した時間帯ごとの割増率に従って、計算する必要があります。

この「時間帯ごとの割増率」は以下のとおり規定されています。なおこの計算の際に基礎となる基礎賃金からは、家族手当や住宅手当などは除外して計算しますので、注意しましょう。

* 1日8時間、週40時間を超える残業の場合……1.25倍以上

(大企業については1か月60時間を超える時間外労働については、1.5倍以上)

* 午後10時~朝5時までの深夜残業の場合……1.25倍以上

* 時間外労働が深夜に及んだ場合……1.5倍以上

 

(3)内容証明郵便

残業代の請求権の消滅時効は2年です。

この時効を中断させるためには、支払いの請求の意思表示(催告)をする必要があり、この催告は一般的に内容証明郵便+配達証明で行います。

催告は口頭でも普通の手紙でもできますが、後々審判や訴訟になった際の証拠とするためにも、内容証明郵便+配達証明がもっとも効果的な方法といえます。

内容証明郵便で催告を行うと6か月の間時効期間の延長することはできますが、だからといって、ずっと時効を中断しておくことはできません。

時効を中断するためには、内容証明郵便によって催告をしたうえで、半年以内に提訴するなどの手続きが併せて必要になります。

(4) 証拠保全や仮差押え等の手続き

催告を行うことで会社側が手元に保管しているタイムカードなどの証拠類を隠匿したり、破棄する危険性がある場合には、内容証明郵便+配達証明で催告する前に、証拠保全や仮差押え等の手続きを行うことも検討する必要があります。

(5) 交渉・協議

準備しておいた証拠類や会社が開示した資料などをもとに残業代を計算し、その金額の支払いを会社に対し請求することになります。

個人が交渉してもまともに対応しなかった会社でも、弁護士が介入すると対応せざるを得なくなり、協議がスムーズに進むことも多々あります。

(6) 労働審判・訴訟等の法的手続き

労働審判は、原則として3回以内に終了するシステムなので、通常の訴訟より格段に速いスピードで労働事件を解決へと導くことができるため、近年は労働審判を利用する数が大幅に増加しています。

労働審判手続きを利用する場合でも、通常の訴訟手続きを利用する場合でも、答弁書や補充書面などの資料や証拠類の提示は大変重要です。とくに労働審判は3回で終了することを目的としていることから、第1回期日で有利な心証を得た方が勝つ確率が高くなります。

早めに弁護士に相談して、労働審判の申立書や主張を裏付けるのに有利な書面の準備してくれるよう、依頼するようにしましょう。

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