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会社が労働者に時間外、深夜(原則として午後10時~午前5時)に労働させた場合には1時間当たりの賃金の25%以上の割増賃金を支払う必要があります。また法定休日に労働させた場合には1時間当たりの賃金の35%以上の割増賃金を支払う必要があります。
なお平成22年に労働基準法の一部が改正され時間外労働の割増賃金率が引上げられることになり、1か月60時間を超える時間外労働については、50%以上の割増賃金を支払う必要があります(※ただしこの割増率の引上げは、中小企業は当分の間適用除外)。
ここでは月60時間以上の残業した場合の割増賃金や、引上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇を付与する制度についてご紹介します。
1. 月60時間以上の残業
労働基準法では「1日8時間、1週40時間」を法定労働時間と規定していて、この法定労働時間を超えて残業した場合には、25%以上の割増賃金を支払う必要があるとして、長時間労働を抑制しようとしています。
しかしこのような規制にも関わらず、あるデータでは週60時間以上労働する労働者の割合は全体で10%、とくに30代以上の男性は20%となっており、わが国では依然として長時間労働が課題となっています。
そこで、このような長時間労働をさらに抑制し、働き方を見直すために労働基準法が改正され、会社は月60時間を超える法定時間外労働に対して、50%以上の割増率で計算した割増賃金を支払わなければならないとしました(労働基準法37条1項但書)。
ここでいう1か月とは、賃金計算期間の初日を起算日として計算します(ただし就業規則で起算日について規定されている場合は、それに従って計算します)。
(1) 休日労働と深夜労働の割増率
割増賃金率の引上げは、時間外労働が対象です。
休日労働と深夜労働の割増賃金率については、これまでどおり、会社が労働者に休日労働をさせた場合には、35%以上の割増賃金、深夜労働をさせた場合には25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
2.割増賃金の代わりの有給休暇
1か月60時間を超える残業については、代替休暇制度があります(労働基準法37条3項、労働基準法施行規則19条の2)。代替休暇制度とは、労使協定で必要な事項を決めて、60時間超の割増賃金25%(150%-125%)の支払いに代えて、有休の休暇を付与する制度です。
たとえば月70時間の残業を行った場合、月60時間を超える10時間分の残業について、本来であれば、通常の割増賃金より25%引き上げられた150%の割増賃金の支払いが必要となります。
しかし代替休暇制度が適用される場合には、引上げ分の25%の支払いに代えて有給の休暇を与えることができるというわけです。
労働者がこの有給の休暇を取得した場合でも、現行の25%の割増賃金の支払は必要です。また、労働者が実際に有給の休暇を取得しなかった場合には、50%の割増賃金の支払が必要となります。
(1) 割増率引上げが猶予される中小企業
月60時間を超えた残業に対する割増率引上げは、当面の間中小企業には適用されません。
適用が猶予される中小企業に該当するか否かは、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」で判断されます。
* 小売業……資本金(または出資)の額が5,000万円以下または常時使用する労働者の数が50人以下
* サービス業 資本金(または出資)の額が5,000万円以下または常時使用する労働者の数が100人以下
* 卸売業 資本金(または出資)の額が1億円以下または常時使用する労働者の数が100人以下
* その他の業種 資本金(または出資)の額が1億円以下または常時使用する労働者の数が300人以下
(2)割増賃金引上げの努力義務
月60時間を超えた残業に対する割増率引上げは、当分の間中小企業への適用が猶予されていますが、割増賃金引上げなどの努力義務は、企業規模にかかわらず適用されます。
会社はその企業規模に関わらず、月45時間を超える残業をできる限り短くするよう努力しなくてはなりませんし、法定割増賃金率を25%から引上げるよう努力しなければならないとされています。
2.未払い残業代があるとき
「1日8時間、1週40時間」を超えて残業しているのに1.25倍以上の割増賃金の支払いがされていない場合や、月60時間以上残業しているのに、前述した割増率の引上げがされていない場合には、会社に未払いの残業代を請求することができます。
ただし管理監督者や機密事務取扱者、農業等従事者などは、残業代支払い義務の対象ではありませんし(ただし管理監督者でない場合にまで、「管理監督者だから残業代を支払わない」というケースは違法です)、変形労働時間制や、フレックス制、みなし労働時間制の場合には、残業代の計算方法が異なってきますので、注意が必要です。
(1) 未払い残業代の請求書の書き方
未払いの残業代・残業手当の請求書は、内容証明郵便+配達証明によって送付するのが一般的です。
内容証明郵便で請求書を送付すれば後々「支払ってくれるように意思表示(催告)をした」という証拠となりますし、催告後6カ月以内に訴訟提起などの手続きをとれば、催告時に時効中断があったものとして扱われるので、残業代を請求する権利の時効(2年)を中断することができます。
(2)弁護士に相談する
未払い残業代を請求するためには、給与明細や就業規則のほか、残業した事実を立証するために、さまざまな証拠が必要となります。
また残業代の計算は複雑ですし、変形労働時間制や、フレックス制、みなし労働時間制の場合には残業代の計算方法が異なるため、より複雑な計算式が必要となります。
早めに弁護士に相談すれば、どのような証拠が必要となるかアドバイスをもらうことができますし、必要な証拠を提出するよう会社に請求してくれることもできます。
(3) 労働基準監督署に相談する
労働基準監督署とは、労働問題についてトラブルがあった際に、会社に立ち入り調査を行ったりして、行政指導やあっせんを行ってくれる機関です。
ただし未払いの残業代を支払うよう命令してくれることはありませんし、その命令に強制力があるわけではないので、注意が必要です。