働き方改革で気になる「高度プロフェッショナル制度」とは?

残業代
残業代

政府による働き方改革が進む中で、労働基準法(労基法)改正案に「高度プロフェッショナル制度」という制度が組み込まれることになりました。

「高度プロフェッショナル制度」とは、労働者の働き方の柔軟性向上、成果型報酬制度の促進のために、特定の労働者を労働基準法による対象から外すというものです。これによって、世間では「成果を出せば労働時間を短縮できる」、「対象労働者の働き方を自由にできる」との声が上がっています。

しかし、「高度プロフェッショナル制度」を導入することで本当に上記のような効果を上げることは可能なのでしょうか。今回は、そのような「高度プロフェッショナル制度」についてどのような制度で働き方がどう変わるのか詳しく説明していこうと思います。

1.「高度プロフェッショナル制度」とは

「高度プロフェッショナル制度」とは別名で「残業代ゼロ法案」や「脱時間給制度」などとも呼ばれている制度で、年収1,075万円以上の特定の職種に就く労働者を労働基準法による労働時間、休日、深夜の割り増し賃金などの規制の対象外とするという制度です。

つまり、「高度プロフェッショナル制度」の対象者に対する残業代や深夜割増賃金の支払いが不要になるということです。

(1)対象職種

「高度プロフェッショナル制度」が対象とする職種は

高度の専門知識等を必要とし、その性質上労働時間と生み出した成果との関連性が通常高くないと認められる業務

と定められております。

具体的な職種は法律ではなくて、厚生労働省が省令によって定めることになっております。

今のところは、金融商品の開発、金融ディーラー、企業や市場などのアナリスト、事業コンサルタント、研究職などが念頭に置かれております。

(2)対象年収

「高度プロフェッショナル制度」が対象とする年収は「労働者の平均所得の3倍を相当程度上回る水準」となっております。

具体的な金額は厚生労働省によって決められることになっておりますが、現在のところ「1,075万円以上」が対象となると想定されております。ちなみに国税庁の民間給与実体調査結果(H26年)によると、年収が1,000万円の人の割合は男性6.6%、女性0.7%でした。

その他の条件

「高度プロフェッショナル制度」を採り入れるには、以下のような条件も満たさなければなりません。

職務内容が明確に定まっている事

労使委員会の4/5以上の賛成による決議

労働者本人の同意を得ること

行政官庁へ届出

経営者が労働者の在社時間と社外労働時間をしっかり把握できること

年間104日以上、4週間に4日以上の休暇を与えること

勤務間インターバル制度、深夜労働の回数の上限などの措置のうちいずれかを実施していること

有給休暇の付与、健康診断の実施など

2.「高度プロフェッショナル制度」によって本当に働き方が柔軟になる?

「高度プロフェッショナル制度」を実施すれば、本当に働き方の柔軟性は向上するのでしょうか。確かに、「高度プロフェッショナル制度」によって成果を出せば労働時間を短縮できるという声があります。

しかし、そのような対象労働者の働き方が柔軟になるという見方は、

業務量が多い訳ではないが、残業代をもらうために残業している

やるべき仕事を早く終わらせても退社時間が決まっているので気づいたら残業になる

「業務量がとりわけ多いというわけではないが、残業代を得るために意図的に残業をしている」場合や、「仕事を早く終わらせても退社時間が決まっているから帰宅ができず、結果的に残業になっている」という前提に立っております。

確かに、このような状態なら「高度プロフェッショナル制度」は有効に機能して、働き方の柔軟性は向上すると思われます。しかし、本当に日本の対象労働者はこのような働き方をしているのでしょうか。

圧倒的な仕事量でサービス残業をする男性

まず、対象労働者の多くはサービス残業をしており、残業時間に対する残業代が支払われておりません。そのため、残業代を得るために残業をしているわけではありません。

また、対象労働者のほとんどが過労死基準以上の残業をしております。そのような残業をしなければならない理由は業務量が圧倒的に多いからです。そのため、平均的な残業時間で仕事を終えている人は稀です。

さらに、あらかじめ定められた退社時間までに仕事が終わることはほとんどありません。

そのため、業務量が多い時に残業が増えるのと同じように、業務量が少ない時に早く退社できるわけではありません。

以上のように、「高度プロフェッショナル制度」によって柔軟な働き方が可能になるという予想は、かなり非現実的であることがわかります。

3.まとめ

たしかに、以上のように、「高度プロフェッショナル制度」では労働者を労働基準法の制約から外すことができるため、自分の働き方を自由に決められるように思えます。

しかし、実際には対象労働者のほとんどが業務量の多さから残業をせざるを得ない状況にあります。

そのため、労働者の労働時間を労働基準法の対象から外したとしても、業務量が変わらない以上は残業時間も変わらない可能性が高いと言えます。また、会社によっては残業代を出さずに膨大な量の仕事を毎日課され続け、身体や精神に悪影響が出る可能性もあります。

そのため、働き方の柔軟性向上を図るにあたってはより現実に即し、労働時間だけではなく長時間労働の原因となっている業務量に対しての改善も必要だと思われます。

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