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管理職、年俸制、固定残業制や、裁量労働制など「いくら残業しても、これ以上は残業代の請求ができない」と思わせるような仕組みや制度を導入している会社は多々ありますが、そのような制度を導入している会社に対してでも、法律上は残業代の請求が認められるケースは多々あります。
実際、時間外労働などに対して割増賃金が支払われていないとして、平成27年度に労働基準法違反で是正指導される企業は年々増加傾向にあります。
ここでは残業代が出ない企業や、その背景にある労働時間と残業代の問題点等について考えていきます。
1.残業代不払いの問題
未払い残業代の問題は、最近ますます増えてきています。
厚生労働省の「監督指導による賃金不払残業の是正結果」によれば、賃金不払残業を理由に指導された企業は1,348企業で、支払われた割増賃金の平均額は1企業あたり741万円でした
平成22年度の調査結果では、指導された企業が1,386企業、支払われた割増賃金の平均額が1企業あたり100万円以上であったことと比較すると、支払われた割増賃金の平均額について大幅に増額していることが分かります。
背景にある事情としては、日本的経営が崩壊して終身雇用制や年功賃金制がなくなり、従来のような労働者の忠誠心が薄らいできたことや、労働者の権利意識が向上したことなどがあるとされています。
(1) 平均的な残業時間
厚生労働省が毎月発表している「毎月勤労統計調査」によると、所定外労働時間はあたり10.2時間とされています。
ただし、この数字は使用者である会社からの報告データに基づいて、算出されたものです。
労働者側の口コミ情報を掲載しているサイトなどによれば、月間の平均残業時間は40~50時間というデータもあります。
このデータの差は、会社側が固定残業制や裁量労働制などの制度を導入していて、労働者に無意識にサービス残業をさせている可能性が高い……ということを示唆しているともいえます。
(2) サービス残業時間
日本労働組合総連合会が、20歳~59歳の男女雇用労働者(正規労働者・非正規労働者)3,000を対象に行った「労働時間に関する調査」によると、「賃金不払い残業(サービス残業)をせざるを得ないことがある」と回答したのは4割強でした。
そしてサービス残業時間については、一般社員で18.6時間/月、課長クラス以上28.0時間/月という結果となりました。
労働時間に関する調査 |
2. 残業したら割増賃金の支払いが原則
労働基準法32条では「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。使用者は1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」と規定しています。
つまり残業は、法律で決められた労働時間を超えて労働者を働かせる「例外的な労働」であり、例外な労働であるからこそ割増賃金を支払う必要があるのです。
それではなぜ残業代を払わない会社が多いのでしょうか。
「残業代が発生しない例外」はないのでしょうか。
(1) 裁量労働制
裁量労働制(みなし時間制)を採用している場合には、実際の労働時間に対応した残業代は支払われません。
もっとも、この裁量労働制を採用するためには、いくつもの厳しい基準をクリアしなければならず、実際には裁量労働制(みなし時間制)を採用している会社に対しても、残業代を請求することが可能なケースは多々あります。
(2) 固定残業制
固定残業制(定額払い制)が採用されている会社だと、決まった額の残業代しか請求できないと思っている人も多いのですが、実労働時間にかかわらず決まった額の残業代しか出さないとしている場合でも、支給された残業手当が実労働時間で計算した残業代に満たない場合には、その不足分を請求することができます(三晃印刷事件・東京高裁判決・平成10年9月16日)。
(3) 役職手当や営業手当
役職手当や労働手当が支給されていることを理由に、残業代が出ないとしている会社もありますが、役職手当や営業手当はその役職や職務に対して支給される手当であり、残業代がその手当に含まれるとするのは、原則として許されません。
仮にその手当が残業代の性質をもっていた場合でも、支給された残業手当が実労働時間で計算した残業代に満たない場合には、その不足分を請求することができます(ユニコン・エンジニアリング事件・東京高裁判決・平成10年6月25日)。
3. 残業代はいつ請求できるか
それでは、未払いの残業代を支払ってもらうためには、どのような請求をいつすればよいのでしょうか。
(1) 2年の時効
残業代を請求する際に忘れてはならないのが、残業代の請求権に関する消滅時効です。
法律上残業代などの賃金請求権は、権利が発生してから2年で消滅時効が到来します(労働基準法115条)。ですから、この時効が到来する前に権利行使をしなければ、残業代を取り戻せなくなってしまうこともわるわけです。
なおこの時効は「退職してから2年」ではなく、「毎月の給料日から2年」です。
「退職してから2年以内に請求すればよい」と勘違いしている人も多いのですが、毎月毎月、2年前の給料が時効にかかって請求できなくなってしまっているので、注意しましょう。
なお未払いの残業代を計算するためには、タイムカードや給与明細書などの必要な証拠を準備し、時間帯ごとの割増率に従って残業代を計算する必要がありますので、2年の時効という点から考えても、早めに弁護士などの専門家に相談しましょう。
そして請求時期や内容について証拠を残すために、内容証明郵便による催告など、時効を中断するための手続きをとるようにしましょう。
(2) 場合によっては2年より前の残業代請求もできる
個々の事情にもよりますが、不法行為に基づく損害賠償と考えられる場合には、2年より前の残業代も含めて会社に請求できる場合もあります。
「もう時効が過ぎたから、請求しても無駄だ」と諦めてしまわずに、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。