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過労死とは、文字どおり長時間労働などの働き過ぎが原因で死に至ることをいいます。一般的には脳卒中や心臓病などの循環器系の病気を原因とする場合が多いのですが、最近はうつ病、PTSDなどの精神疾患で自殺に追い込まれてしまう過労自殺も増えています。
長時間労働による疲労やストレスは、脳や心臓や血管にダメージを与えることが医学的にも証明されています。
過労死が労災認定されるかどうかの1番のポイントは「労働時間」で6か月平均80時間もしくは、発症前1か月間におおむね1か月前の時間外労働100時間を健康障害リスクが高まる時間外労働の目安であるとして、「過労死ライン」と呼ばれることもあります。
1. 過労死ラインとは
長時間労働による疲労やストレスは、脳や心臓や血管にダメージを与えることが医学的にも証明されているため、過労死が労災認定されるかどうか判断するときに一番注目するのが「労働時間」です。
2. 過労死ライン「80時間」とは
過労死ラインとは、働き過ぎにより健康障害が生じて、労働災害と認定の因果関係の判断できるかどうかのために設けてある時間外労働の目安となる時間の基準で、実際の労災認定は以下の基準に沿って判断されています。
- 発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超えると発症と業務との関連性が強いと判断されます。
- 月あたり45時間を超える時間外労働が長くなるほど業務と発症の関連性が徐々に強まるとされています。
- 月45時間を超える時間外労働が認められない場合は業務と発症の関連は弱いとされる可能性があります。
上記1に該当する場合は、過労死を発症したのは「業務上が原因である」と認定され、2に該当する場合は、稀に認定されるものの、ほとんどが「業務外認定」とされます。3の場合には、他に有力な関連要因がない場合には、業務外認定として処理される可能性が高いといえます。
過労死が認定されるためのそのほかの要件
過労死が労災認定されるための基準は労働時間のほか、以下の要因も加味して判断されます。
* 異常な出来事があったこと 発症直前から前日までの間において、発症状態を時間的場所的に明確にできるほどの異常な出来事に遭遇したこと。 |
ここでいう「異常な出来事」とは、たとえば極度の緊張、興奮、恐怖、驚愕などの強度の精神的負荷を引き起こすような、突発的または予測することが困難な異常な事態のことを指し、たとえば轢死事故を目撃してしまった列車運転手や、職場の火災事故、異常な猛暑下の屋外作業などのケースが該当すると判断されています。
* 短時間の過重負荷があったこと 発症前おおむね1週間に日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせる業務に従事したこと。 |
ここでいう短時間の過重負荷とは、拘束時間や出張などさまざまな事情を加味して判断されますが、発症する直前1週間に徹夜などの深夜労働をした場合、長時間勤務や連続勤務などをした場合には、それだけで労災認定される場合があります。
3. 長時間労働が人体に及ぼす影響
長時間残業などの働き過ぎや、仕事上の強いストレスは、心や身体の健康を損なってしまうことが医学的にも証明されていますし、ひどい時には死に至る場合もあります。
(1) 過労死で労災が認められる病気
過労死について、厚生労働省や人事院では、「認定基準」という通達を出しています。
認定基準は、務上の過重負荷によって発症しうる脳・心臓疾患ですが、さらに次の疾患に限定しています。
- 脳血管疾患(脳内出血、くも膜下出血、脳こうそく、高血圧性脳症)
- 虚血性心疾患等(心筋梗塞、狭心症、心停止、解離性大動脈瘤)
(2) 過労自殺で労災が認められるためには
うつ病や適応障害などで、自殺してしまった場合、その死は、その病気が原因であると推定されます。そしてその病気を発症した原因が仕事であった場合には、亡くなったこと自体が労災認定されます。
発症前の6か月の間に月100時間程度の残業がある場合には、強度のストレスがあったとみられ、過労自殺が労災認定されやすくなりますが、このほかにも強いストレスと考えられる出来事があったかどうかも加味して判断されます。
4. 過労死・過労自殺を防ぐためには
過労死・過労自殺が大きな社会問題になっているにも関わらず、過労死・過労自殺の件数は、減ったとは言えず、企業の体質もなかなか変わらないのが実情です。
2015年には大手広告会社の新入社員が、1か月に105時間もの残業を余儀なくされてうつ病を発症し過労自殺してしまった悲しい事案がありました。しかも、この会社は社員に勤務時間を少なく申告させていた疑いもあるとして、厚生労働省が強制捜査に乗り出しています。
過労死・過労自殺を防ぐためには、とにかく「働ぎすぎたら過労死・過労自殺のリスクがある」ということを認識し、意識的に休養をとる必要があるのだ、ということを認識することです。
(1)残業を減らす
これまでも述べてきたように、1か月当たりの時間外労働が80時間を超えているようであれば、その時間外労働を意識的に減らすようにしましょう。
「自分だけ先に帰る」と言い出しづらい事情もあるでしょう。しかし時間外労働が80時間を超える状況が長く続けば、心や身体の健康を損ない、最悪の場合、過労死・過労自殺のリスクもあるということは医学的にも証明されているのです。
しかも、なかには「みなし労働制だから」「営業手当を支払っているから」「月々の残業費は固定だから」とさまざまな主張をして、残業させているにもかかわらず時間外労働に見合った残業代が支払われていない会社もあります。
残業代も満足に支払われるに長期間残業の犠牲になっているのは、あなたの健康であり命だということを忘れないようにして下さい。
(2) 休業する・退職する
どうしても時間外労働を減らすことができなければ、思い切って休業することを考え、休業しても状況が改善しないようであれば、退職することも考えましょう。
公共職業安定所の雇用保険給付手続きでは、退職前の時間外労働が100時間を超えたり、2か月以上連続で80時間を超えている場合などは、会社都合退社(会社が原因で退職することになった)が認められ、失業保険がすぐに支給されたり、給付期間が長くなるなど失業保険が手厚くなる場合があります。