パワハラ(パワー・ハラスメント)とは、主に職務上の力関係を利用して相手の人格や尊厳を侵害するような言動を繰り返すことで、精神的・身体的苦痛を与えたり職場の環境を悪化させる行為をいいます。
パワハラは、働く人の尊厳や人格を傷つける許されない行為であり、厳しい雇用情勢や成果主義人事制度を背景として、最近ますますクローズアップされている社会問題です。
しかしパワハラの法律が未整備なこともあり、対応策はまだまだ未着手の部分が多いというのが現状です。
ここでは、パワハラの現状に関するデータや、今後求められる企業や行政の課題について考えていきたいと思います。
1.パワハラの現状
パワハラ(パワー・ハラスメント)の問題は、新聞や雑誌などのメディアで特集が組まれることも多く、認知度はアップしています。
中央労働災害防止協会が行った「パワー・ハラスメントの実態に関する調査研究報告書」では、依然としてパワハラ問題に関する意識が高まっていることが推測されます。
ここでは、平成22年に行われた「パワー・ハラスメントの実態に関する調査研究報告書」から主要なデータを抜粋してご紹介します。
※参考データ
職場のパワー・ハラスメント対策取り組み状況に関する実態調査報告書(簡易版)
https://www.cuorec3.co.jp/info/enquete/file/2011021801.pdf
「5年前(2005年頃)と比べて、パワハラあるいはこれに類似した問題は増えてるか」
- 2倍まではいかないが増えていると思う…44.8%
- 変わらないと思う…22.1%
- 減っていると思う…15.3%
- 2倍以上も増えていると思う…9.8%
- 過去5年間で1度も発生したことがない…8.0%
「過去1年間で、何件くらい発生したか?」
- 1~5件…61.3%
- 0件…11.7%
- 6~10件…9.8%
- 11件~19件…9.2%
- 20件以上…8.0%
「過去5年間でどのようなパワハラ問題が発生したか」
- 人格を傷つける発言、イヤミなど、私的なことで嫌がらせ行為があった…66.9%
- ミスを皆の前で叱責したり「能無し」「給料泥棒」など能力を否定する言動があった…63.8%
- 指導と称して、厳しすぎる教育を行ったケースがあった…57.7%
- サービス残業の強要、退職勧奨など労働法関連の行為があった…23.9%
- 胸ぐらをつかむ、書類を投げる等の暴力行為や脅迫行為があった…20.9%
「パワハラ問題の結果として、どのような影響が及ぼされか」
- 被害者にメンタル問題が発生した…84.0%
- 職場が混乱した…59.7%
- 被害者が自主退職した…35.4%
- 被害者/加害者以外の周辺の従業員にメンタル問題が発生した…18.1%
- 加害者が自主退職した…9.0%
「誰が誰に対してパワハラを行っていたか」
- 上司が部下に対して…96.6%
- 先輩が後輩に対して…37.2%
- 正社員が契約・派遣社員に対して…31.1%
- 同僚同士で…16.9%
- 加害者が自主退職した…9.0%
2.パワハラをめぐる企業の対応
パワハラは、働く人々のメンタルヘルスにも大きな影響を与える重要な問題ですし、周辺の人や加害者、企業にも大きな損失をもたらす可能性があります。
パワハラを受け続ければ、被害者はうつ病やパニック症状などメンタルヘルスが悪化するリスクが高くなりますし、加害者は刑事責任を追及される可能性もあります。また、企業側としても、きちんとした対応をとらなければ、安全配慮義務違反を問われるというリスクを負うことになります。
(1) パワハラの意識調査
平成17年の中央労働災害防止協会の「パワー・ハラスメントの実態に関する調査研究報告書」によれば、約4割の企業がパワハラ対策を「とても重要である」と回答していて、「やや重要である」と合わせると8割以上がパワハラ問題を重要と考えていることが分かります。
「パワハラ対策は経営上重要な課題だと思いますか」
- やや重要である…44%
- とても重要である…38%
- それほど重要ではない…8.0%
- よく分からない…5%
- 空欄…3%
また、「パワハラは企業にどんな損失をもたらすと思うか」という設問に対しては、以下のような回答があります。
- 社員の心の健康を害する…83%
- 職場の風土を悪くする…80%
- 本人のみならず周りの士気が低下する…70%
- 職場の生産性を低下させる…67%
- 十分に能力発揮できない…59%
※参考データ
職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング報告
http://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/pdf/pawahara_panflet_back_left.pdf
(2) 今後の課題
これまで紹介してきた調査報告書からも、パワハラに関する企業の理解や関心は高くなってきていることが分かりますし、弁護士に「パワハラの被害に遭った」「パワハラの問題発生時の対応や予防策について知りたい」などの相談件数も増えてきています。
しかし「何がパワハラに該当するか」の判断をする段階になると明確な基準がなく、「業務上の指導との線引きが困難」という問題もあることから、人事担当者なども、適切な対応策は未だ手探り状態が続いているケースが多いようです。
しかしパワハラ問題は、被害者だけでなく、企業や加害者にもリスクがある問題で、決して放置すべき問題ではありません。
「被害者から相談を受けた」「どのようにパワハラを予防するべきか分からない」という場合には、早めにパワハラ問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
3.パワハラをめぐる行政の対応
行政を主導としたパワハラ対策としては、「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」を開催し、平成24年3月に「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」が取りまとめられ、そのなかでパワハラや類型がまとめられています。
しかし実際の対策としては、行政機関での相談対応を除けば、あまり進んでいないのが現状です。
パワハラに関する労災申請
パワハラの労災の申請状況としては、メンタルヘルスが悪化したケースについて労災認定されるケースが増えています。
メーカー勤務の男性が子会社への出向を拒否したところ、仕事が全く与えられなくなり、うつ病を発症したケースや、「能なし」「会社を辞めろ」と激しく叱責を受け、うつ病を発症し自殺したケースでは、それぞれうつ病の発症と業務の因果関係が認められ、労災が認定されています。