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あるとき課長に昇進したとたん、会社から「あなたは管理職になったので、役職手当が3万円つくことになりました。その代り残業代は出なくなりました。」と言われ、昇進前より給料が下がってしまった……というケースはよく聞く話です。
労働者の側も「管理職になったら、残業代は出ないものなのだ」としぶしぶ了承してしまっているケースも多々あります。しかし管理職といっても、課長や部長などのクラスであれば、残業代を支払わないのは違法である可能性があります。
諦めずに弁護士に相談するなどして、未払いの残業代を取り戻しましょう。
1. 役職手当と残業代未払いの問題
「役職手当がついたから、今後残業代は出ない」という、管理職と残業代の問題は、大きなテーマです。
近年は労働者保護のための制度が充実してきたこともあり、声をあげる労働者が増えてきました。その結果、係長クラスの管理職が会社に要求し状況が改善されたケースもありますし、会社が労働基準監督署の指導を受けたケースもあります。
しかしそれでも「課長や係長になったから、残業代は出ない」とする会社はまだまだ存在するのが実情です。
(1) 役職手当と残業代は別物
会社にとって残業代は、ある意味「予想できない変動コスト」といえます。
社員が残業代目当てで無制限に残業していたら、人件費は無制限に膨らんでしまい、経営を圧迫しかねません。
そこでこの変動コストを固定的なコストとするために、「毎月定額の役職手当を出して、その代り残業代をカットしよう」「営業手当のなかに残業手当を含めて、合残業代をカットしよう」など、さまざまな方法で残業代をカットしようとするのです。
しかし役職手当や職務手当などの手当と残業代は、本来全く別のものです。
職務手当や役職手当は、その役職や職務に対して特別に支給されるものであり、残業代は所定労働時間や法定労働時間を超えたときにもらえる割増賃金です。
残業代の定額が示されていない場合や、実際の残業代より大幅に下回っている場合には、残業代を請求できる可能性は高いと言えるでしょう。
ただし給与規定などで「職務手当や役職手当の一部に定額の残業代を含む」と明記されていて、かつその定額の残業代が実際に行った残業代の平均よりも多い場合には、一括の手当とすることは可能です。
(2)名ばかり管理職と管理監督者
労働基準法では、管理監督者に該当する労働者は、労働時間、休憩、休日や、時間外労働などの規制を受けないとされています。
つまり管理監督者には法定労働時間もないので法定時間外労働(残業)もなく、会社は管理監督者には残業代を支払う義務はないと規定されていて、会社が「係長や課長、部長になったので残業代は支払われない」と主張するのも、この規定を根拠としています。
しかしここでいう「管理監督者」とは一般的な職制上の管理職ではなく、労働基準法41条2号に定める「監督もしくは管理の地位にある者」を意味しています。
そしてこの管理監督者の範囲については「部長、工場長など労働条件の決定やその他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者」で「課長や係長といった名称にとらわれず、出社退社などについて厳格な制限を受けない者」とされています。
普通の会社では、係長や課長、部長が経営者と一体になって賃金を決めたり昇進を決めたりといった労務管理を行っているとは考えにくいでしょう。
つまり係長や課長、部長だからといって会社が残業代を支払わないのは、違法である可能性が高いのです。
(3) 裁判例1(マクドナルド事件)
名ばかり管理職の裁判のなかでもっとも有名なのが、マクドナルド事件といえるのではないでしょうか。
日本マクドナルドの店長が「店長が管理職だとして残業代を支払わないのは違法である」として、会社に残業代の支払いを求めたのです。
裁判の結果、会社はこの店長を名ばかり店長だったと認め、2年分の未払い残業代など約1000万円を支払うことで和解が成立したのです(平成21年3月)。
(4) 裁判例2(ことぶき事件)
ことぶき事件とは、美容院および理髪店の会社の総店長の職務に就いていた人(Aさんとし「課長になって役職手当が出たから、残業代カットになってしまい給料が下がってしまった」という話はよく聞く話です。
しかし課長・部長といった管理職だからといって、残業代を支払わないケースは違法である場合が多いので、諦めずに請求しましょう。「課長になって役職手当が出たから、残業代カットになってしまい給料が下がってしまった」という話はよく聞く話です。しかし課長・部長といった管理職だからといって、残業代を支払わないケースは違法である場合が多いので、諦めずに請求しましょう。ます)が、退職した後に、時間外割増賃金、深夜割増賃金などを請求した事件です。
最高裁では、深夜労働が労働者の心身の健康上に及ぼす負担の大きさとともに、管理監督者も労働基準法37条4項により、深夜割増賃金を請求できるとしました(最高裁第二小法廷・平成21年12月18日)。管理監督者であっても、深夜労働に関する規定については適用されますし、管理職が管理監督者であるかどうかにかかわらず深夜割増賃金を支払う必要があるとしたのです。
ただし、このとき最高裁は、管理監督者に対する深夜割増賃金の支払いについて「管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約、就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には、その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はない」としています。
つまり「労働協約、就業規則で所定賃金のなかに一定額の深夜割増賃金を含める」と明記してある場合には、深夜労働の割増賃金を支払う必要はないとしています。
2. 未払い残業代を取り戻す3つの方法
これまで述べてきたように、役職手当がついたことや管理職になったことを理由に、残業代を支払わないのは違法である可能性が高く、声をあげれば取り戻せるケースがほとんどです。
残業代の請求権の消滅時効は2年であり、2年経つと取り戻せるはずの残業代を請求できなくなってしまいます。
ぜひ早めに行動を起こすことをおすすめします。
(1)直接交渉する
残業代を取り戻す方法としてまず考えられるのが、会社に直接交渉するという方法です。
しかしそもそも残業代の支払いを免れようとした会社が、労働者に請求されたからといって、すんなり応じてくれることは考えにくいでしょう。
(2) 労働基準監督署に相談する
労働基準監督署では、労働者から申告があった際に、是正のための指導や立ち入り調査を行い、行政指導を行います。そして会社がこの指導に従わなかったときは、その旨を公表することができます。
しかし労働基準局では是正するよう指導は行ってくれても、残業代を支払うよう命じてくれるわけではないので、注意が必要です。
(3)弁護士に相談
未払いの残業代を取り戻す方法として、もっともおすすめなのは、やはり弁護士に相談する方法です。
弁護士に相談するメリットとしてはまず「未払いの残業代がそもそもあるのか」を確認できますし、「残業代を請求できる場合に、必要となる証拠」についてもアドバイスをもらうことができるという点をあげることができます。
また弁護士が介入すると、審判や訴訟を避けるために和解しようとする会社も多々あり、スムーズに協議が進むというケースも少なくありません。
繰り返しますが、残業代の請求権の消滅時効は2年です。
取り戻せるはずの残業代を取り戻せなくなってしまう前に、早めに弁護士に相談することをおすすめします。