目次
パワハラは上司から部下に対してされる行為というイメージが強いですが、同僚間のパワハラもありますし、部下から上司に対するパワハラもあります。
しかし、やはりパワハラの相談のなかでもとくに多くみられるのが、上司からいじめ、嫌がらせをされる「上司からのパワハラ被害」です。
パワハラ上司には「パワハラを行っている」という自覚がなく「指導・教育のつもりだった」というケースも多々ありますし、実際のケースでは、パワハラと指導・教育の境界線は問題となる傾向が強いものです。
それでは、どのようなケースがパワハラといえるのでしょうか。
ここでは、実際のパワハラの事例を紹介しながら、指導・教育との境界線について考えていきたいと思います。
1.パワハラとは
パワハラとは、同じ職場で働く者(上司、同僚、部下など)に対して、職務上の地位や人間関係などの立場の優位性を背景にして、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える行為や、職場環境を悪化させる行為のことで、怒鳴る、侮辱する、無視する、暴力を振るうなどだけでなく、わざと仕事を与えなかったり、過大な仕事を命令するなどの行為もパワハラに当たります。
上司のパワハラの特徴
パワハラを行う上司には、「自分がパワハラを行っている」という意識がないケースが多々あります。つまり、本人は「これは指導をするうえで必要な行為だ」とか「まさか自分の指導をパワハラであるわけがない」と思っているケースも多いのです。
また、リーダーとしてあるべき姿を勘違いしているだけの人や、人とのコミュニケーションが下手なだけ……という人もいます。
このようなケースでは、どこまでが業務上の指導・教育であり、どこからがパワハラなのかという境界線が問題となります。
2. パワハラか否かの判断基準
パワハラか否かは、個々の状況や内容について、業務において指揮監督の権利を濫用していないか、人格権を傷つけるものでないかなど、さまざまな要素から判断していくことになります。
(1) 軽い攻撃
部下の腕を引っ張るなどの軽微な暴行については、例え業務上必要性があったとしても、他に取り得るべき手段があったのであれば、それは原則としてパワハラに当たります。
また、直接的に身体に攻撃を与えたのではなかったとしても、懲罰として戸外に長い間立たせるなどの間接的に負担を与える行為としてパワハラに当たります。
(2) 精神的な攻撃
「給料泥棒」「くそばばあ」「辛気臭い」などの暴言はもちろん、部下のミスを叱責するメールを、部署内の全員に一斉送信したり、SNS上で「やる気がないなら、会社を辞めろ」などと記述することも、パワハラに当たる場合があります。
どのような行為がパワハラかについては、さまざまな要素から「その内容が許容限度を超えているか」「著しく相当性を欠くか」などを検討して不法行為に該当するかどうか検討していくことになります。
そして、表現内容や、形式などから、客観的に指導・叱咤激励の表現として許される限度を超えていると判断される場合には、仮に正当な理由があってもパワハラと認定される可能性が高くなります。
(3) 過小な要求
例えば営業職として入社した労働者に対して、草むしりをさせるなど、業務上の合理性なく、程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えずに放置することもパワハラに当たります。
しかし、ミスの多い部下に仕事を与えないのがパワハラに当たるかどうかは、判断が難しい場合があります。
例えば、病院など人命を取り扱う職場であれば、たとえ軽微なミスでも重篤な結果を招きかねないからです。
もちろん、単に嫌がらせが目的だったりすれば、パワハラとして不法行為に該当しますし、教育や指導を通じて改善をはかることもせずに「仕事を与えない状態」が長期にわたる場合には、やはりパワハラと認定される可能性が高いといえるでしょう。
(4) 過大な要求
とうてい勤務時間内に終わらないような業務量を命じる行為は、パワハラに当たる可能性が高いでしょう。
しかし、たとえば新入社員に対しては指導・教育の範囲内かどうか問題となるケースもあります。
とくに入社直後の新入社員は、さまざまな知識やスキルを習得していく過程にあり、無理をして過重業務になりがちなので、上司はそうならないよう配慮する義務があるといえます。
日本土建事件(津地判平成21年2月19日)では、新入社員に対する指導担当者の身体的・精神的な攻撃行為や、違法な時間外労働が問題となりました。
この判例では、加害者のみならず会社としても、当該新入社員の過剰業務やパワハラ行為を放置していたことが、安全配慮義務違反・パワハラ防止義務違反(職場内の人権侵害が生じないように配慮する義務違反)があったとして、不法行為責任を認定しています。
(5) 私生活への干渉
「いつ結婚するのか」「恋人はいるのか」など、業務上関係のない私生活上の問題について執拗に質問するのはパワハラであり、さらにセクハラにも該当する可能性があります。
「質問に答えないなら、査定に響く」など、職場の優越的地位を利用して人事考課等で不利益に扱うことをジョークで発言した場合には、当然パワハラに当たります。
3. パワハラされた時の対処法
パワハラの被害者のなかには「自分が至らないからだ」とか「自分が我慢すれば」など、その悩みを誰にも相談できない人もいますが、会社はパワハラが起こらないように配慮する義務があります。
ですから、勇気を出して会社にパワハラの事実を相談していることをおすすめします。
ただし、何も証拠がないまま相談しても、パワハラの加害者に「そんな事実はない」と白を切られてしまえば元も子もありません。
パワハラの事実を会社に相談する際には、その前に労働問題に詳しい弁護士に相談し、必要となる証拠などについてアドバイスを受けておくとよいでしょう。
(1) 加害者に対する責任追及
パワハラは不法行為であり、加害者に対しては損害賠償を請求することができますし、場合によっては、加害者は刑事上の責任を負うこともあります。
たとえば、暴力行為があった場合には、暴行罪や傷害罪が成立しますし、暴言や、脅迫、侮辱などの発言があった場合には、脅迫罪、強要罪、侮辱罪などが成立します。
パワハラの慰謝料の額は個々のケースによって異なりますが、10万円~300万円の範囲内がほとんどです。
(2) 会社や役員に対する責任追及
会社は、パワハラを行った本人に不法行為が成立する場合には、使用者責任を負う他、パワハラを放置していたなどの過失があれば、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負います。