労災保険の制度趣旨と加入条件

労働災害
労働災害

労災保険とは、労働者を守るための保険です。労働者が業務上または通勤中にケガしたり、病気になったり、障害が残ってしまったり、亡くなった場合に、被災労働者や遺族を保護するために給付する手当です。

労災保険は、一部の事業をのぞき、労働者を1人でも雇っている会社は必ず加入する必要があります。

1.労災保険の制度趣旨

労災保険とは、従業員が仕事中や通勤中に事故や災害などに遭って、ケガをしたり病気になったり、体に障害が残ったり、死亡した場合などに、必要な保険給付を行うものです。

つまり国があらかじめ会社から保険料を集めておいて、突発的な事故が起きたときには、会社に代わって社員に必要な補償をする制度です。

(1)労災保険の加入条件(適用事業)

国の労働保険や社会保険は強制加入のため、加入手続きをしていないと法律違反となります。労働者を1人でも雇っている会社は、労災保険の加入手続を行わなければなりません。

会社が労災保険の加入手続を怠っていた場合には、その間に労災事故が発生したときには、未加入の期間中の保険料を徴収するほか、労災保険から給付を受けた金額の100%または40%徴収されますので、注意が必要です。

ただし例外的に、農林水産業のうち小規模の個人事業では、労災保険に加入するかどうかは経営者が決めることができます。

ただしこのような個人事業でも、社員の半数以上が希望するときには、労災保険に加入しなければなりません。

(2)労災保険の適用範囲

労災保険は、労働者の保護を目的とした保険制度なので、正社員やパートタイマー、臨時雇いなどの雇用形態は関係なく、すべての労働者が加入対象となります。

代表権、業務執行権を有する役員は適用されませんが、法人の取締役等であっても、代表者の指揮監督を受けて労働に従事して賃金を受けている場合はその部分のみ適用となります。中小企業の会社等は特別加入制度があります。

※特別加入制度とは

労災保険の制度趣旨は、本来「社員に対して補償を行うこと」です。しかし中小企業の社長や建設業の1人親方などは、社員と同じように仕事をしているケースが多々あります。

そこで、このような人たちもきちんと補償を受けられるように、労災保険では特別加入制度を設けています。

 

2.労災トラブル事例

会社に「労災にはならない」と主張され、やむなく健康保険を使って治療してしまった……というケースや、労災保険給付に関する決定について不服があるケースなど、労災をめぐるトラブルは近年増加傾向にあります。

ここでは、よくある労災トラブルについてご紹介します。

(1)会社が労災を認めてくれない

「仕事中のケガなのに、会社が労災と認めてくれない」といったトラブルがありますが、労災になるかどうかは、会社が判断するのではなく労働基準監督署が判断して、保険給付を支給するかしないかを決定します。

保険給付を請求する場合には、「負傷年月日」「災害の原因および発生状況」などについて会社から証明を受ける必要がありますが、会社が労働者からこの証明を求められたときには、すみやかに証明しなければならないとされています。

もし会社がこの証明を拒否するようであれば、会社の証明の欄は空白のままで、保険給付を労働基準監督署に請求することもできます。

(2)会社が労災に加入していなかった

労災保険は、労働者を保護するのが目的の制度なので、会社が労災保険に加入していなくても、労災申請して補償を受けることができます。

ただし前述したように、労災保険強への加入は強制加入であり、労働者を1人でも雇っている会社が加入していないのは法律違反です。

会社が労災保険の加入手続を怠っていた場合には、その間に労災事故が発生したときには、未加入の期間中の保険料を徴収されるなどのペナルティを課せられることになります。

(3)労災認定に不服がある

労災保険の保険給付は、労働基準監督署が判断して、保険給付を支給するかしないかを決定します。

労災保険の請求をすれば、そのすべてが認めてもらえるという訳ではありません。なかには労災と認められず、保険給付が支給されないケースもあります。

もし「労働基準監督署の決定にどうしても納得できない」という場合には、保険給付に関する決定があった日の翌日から60日以内に、労災不服審査制度で不服申し立てをすることができます。

3.労災と民事責任

労災の被災者やその遺族は、労災保険による補償だけでなく、会社に安全配慮義務違反があったり不法行為があった場合には、損害賠償を請求できる場合があります。

(1)示談

労災事故で労災の被災者やその遺族が会社に損害賠償を請求した場合には、会社から示談(裁判外の和解」を提案されることがあります。

労災事故が起きれば、会社は刑事責任、民事責任、行政責任を問われる可能性があるので、できれば責任を問われなくないと思いますし、仮に責任を問われたとしても、その責任を最小限に食い止めたいと思うからです。

しかし会社に提案されるがままに示談に応じてしまうと、受け取れるべき賠償額を受け取ることができなかったり、重要な証拠などを破棄・隠匿されたりする恐れもありますので、早めに弁護士に相談して、内容を十分に検討することをおすすめします。

(2)調停・訴訟

労災事故の示談交渉で示談が成立しなかった場合には、調停や訴訟などの手続きを利用することになります。

会社側は過失相殺などを主張して賠償金額を少しでも少なくしようと、さまざまな主張がしてくることが予想されますし、被害者は加害者である会社の責任を明確にする必要があります。

労災事故の場合には、過失相殺などの主張立証は、裁判所が職権で判断することができますが、それでも重要な証拠を確保し、納得のできる賠償額を受け取るためには、弁護士のサポートが不可欠です。

 

労災事故で損害賠償を請求したいと考えたら、早めに労働問題に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。

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