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セクハラの加害者は、不法行為(民法709条)に問われる可能性がある他、それだけでなく会社で懲戒処分に科されることもあります。また、強姦罪や強制わいせつ罪、侮辱罪などの刑事責任に問われる可能性もあります。
最近は職場のセクハラによって、うつ病などを発症し、それが労災として認定されるケースも出てきたこともあり、これまで以上にセクハラを労働問題として積極的に対策する会社が増えてきました。
これまでは見逃されていたようなセクハラ行為も、今後は厳しく罰せられる可能性が高くなったといえます。
ここでは、セクハラ加害者となってしまった人が負うことになる、さまざまな責任についてご紹介します。
1.セクハラ加害者の民事上の責任
セクハラの加害者は、強制わいせつ罪などの刑事責任を負う場合があるほか、民事上の損害賠償責任を負う可能性もあります。
ここではセクハラ加害者の民事上の責任や、支払わなければならない損害賠償額の相場について、過去の判例も踏まえながらご紹介します。
不法行為責任
セクハラ行為を行った加害者は、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任を負います。
セクハラの被害者は、セクハラ行為によって精神的苦痛を受けています。
ですから加害者は、この精神的苦痛を受けた被害者の損害を賠償するために、慰謝料を支払う必要があるとさえるのです。
なお最近は、この損害賠償額も高度化の傾向があります。
事案によっては、慰謝料だけでなく逸失利益(本来得られるべき賃料などが、セクハラによって休業や退職などしたため、得られなくなった場合)が認定される場合もあります。
岡山セクハラ事件(岡山地裁 平成14年5月15日)では、セクハラ行為がなければ被害者(2名)は少なくともあと1年は勤務していたとして、その年収分(被害者である原告Aには799万9320円、被害者である原告Bには914万2080円)を認定しました。
2.セクハラ加害者の会社での懲戒処分
セクハラの加害者は、会社から何らかの処分を受ける可能性が髙くなります。
セクハラ行為は通常、就業規則で懲戒事由に該当しますので、その規定に従って処分されます。
戒告(かいこく)
戒告(かいこく)とは、違反行為について注意する処分です。
比較的軽微なセクハラ行為については、戒告で済むケースもあります。
譴責(けんせき)
譴責(けんせき)とは、違反行為について注意したうえで、始末書を提出させる処分です。戒告よりは重い処罰となります。
減給
減給(げんきゅう)とは、一定の割合で賃金・俸給等を減額する処分です。
なお減給する際の1回の減給額は、平均賃金の1日分の半額を超えてはいけません。
出勤停止・停職
出勤停止・停職(しゅっきんていし・ていしょく)とは、一定期間出勤させないという処分です。
公務員の場合には、事実上の退職勧告を指すケースもあるとされています。
降職
降職(こうしょく)とは、職務上の地位を下げられる処分です。
諭旨退職
諭旨退職(ゆしたいしょく)とは、懲戒解雇より、一段軽い処分でいわば会社の温情策です。
懲戒解雇されると即日解雇される場合もありますし、解雇予告手当や退職金が支払われないこともあります。
そこで会社の温情で、普通解雇と同様に扱うこととし、解雇を予告、または解雇予告手当を支払い、さらに退職金を支払い従業員の解雇を行うことが「諭旨退職」です。
懲戒解雇
懲戒解雇(ちょかいかいこ)とは、退職金や、労働基準法で定められる30日前の解雇予告や解雇予告手当の支給はされないで、即日に解雇となる処分です。
コンピューター・メンテナンス・サービス事件(東京地裁 平成10年12月7日)では、約5か月にわたって、抱きつきながら胸を触るなどした加害者を、懲戒解雇処分としています。
どのようなセクハラ行為が行われた時に、どのような懲戒処分を科すかについては、それぞれの企業で定めることができます。
3. セクハラ加害者の刑事責任
前述したとおりセクハラの加害者は、民事上の責任を負い、会社で懲戒処分を受ける可能性がありますが、場合によっては刑事責任を負うこともあります。
(1) 強姦罪・準強姦罪
無理やり肉体関係を持とうとした場合には、強姦罪・準強姦罪などが成立する可能性があります。
(2) 傷害罪
セクハラ行為を行った際に、被害者がケガをした場合には、傷害罪が成立する可能性があります。
(3) 強制わいせつ罪
強姦罪ほどの悪質なセクハラではなかったとしても、胸を触るなどの行為をした場合には、強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
(4) 侮辱罪
「処女じゃないんだろう」「店の男と何人とやったんだ」「くそばばあ」などの性的な発言は、侮辱罪や名誉棄損罪が成立する可能性があります。